ICF(国際生活機能分類)とは? WHOが提唱する、介護に役立つ分類のヒミツ

介護を必要とする高齢者に適切なサポートを提供するには、「できないこと」だけではなく「できること」に着目し健康や障害の状態を把握することが大切です。そのために役立つのがICFです。ICFは人の「生活機能と障害についての分類」で、その前身であるICIDH(国際障害分類)の概念を一歩進めたもの。ICFとICIDHとの違いや、ICFを介護現場でどう活用できるか解説します。

 

ICFとは? その考え方と目的

ICFは「International Classification of Functioning, Disabilities and Health」の略称で、日本語では国際生活機能分類といい、人の生活機能と障害に関する世界共通の分類法として、2001年にWHO(世界保健機関)により採択されました。ICFの観点では、生活機能とは、食事や排泄などの日常的な動作はもちろん、社会参加のための環境や他者との関係性など、人が生きて暮らしていくためのすべての機能が含まれます。また、生活機能のトラブルは誰にでも起こりえることから、ICFは障害のある人だけではなく、すべての人を対象にしています。

この考え方をもとに、それぞれの人の「生きることの全体像」を世界共通で理解可能な指標であらわすことがICFの目的です。ある人の置かれた状況を共通の言語で示すことで、異なる分野や人種の人々が同じように理解でき、より良い生活サポートを提供することを目指します。共通言語であることから、ICFはさまざまな分野で活用されていますが、特によく使われているのが医療や福祉、介護の現場です。

 

ICIDHとは? ICFとの違い

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1980年からICFが2001年5月に採択されるまでは、その前身として、ICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps=国際障害分類)と呼ばれる分類法が使われていました。ICFが生活機能にフォーカスしているのに対し、ICIDHは個人が抱える「障害」に注目した分類法です。ICIDHでは、障害を、心身・能力・社会参加の3つの領域に分け詳細に判断しますが、この方法では、障害についてのとらえ方が一方的になりがちです。

例えば、ある人が足に障害を負い自力歩行が困難になり、自室からトイレに行くことや買い物に出かけることが自力でできなくなったとします。これを単に、障害のために日常生活の動作や社会参加がむずかしくなったとするのでは、その人が抱える障害だけが、生活の障壁(マイナス)の原因として考えられてしまう可能性がありました。このことから、考案されたのがICFです。

障害について、個人の機能面におけるマイナスであるという一元的に見るのではなく、周囲の環境を変えるなどで、できることを引き出すという、生活機能のプラスの側面から多角的に見ることに変わったのです。上述の例でいえば、自力での歩行が困難でも、家の中をバリアフリー化することでトイレに行けるようにしたり、車イスの使用や宅配スーパーの利用で買い物ができるようすることで、できないことをできること(プラス)に変えていくことができます。この視点の転換がICIDHとICFの違いです。

 

ICFの構成要素と分類の仕方

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ICFは大きくは「健康状態」「生活機能」「背景因子」から構成され、このうち、さらに、生活機能は3つの要素から、背景因子は2つの因子から成ります。これを生活機能モデルといいます。

・健康状態:病気、ケガ、ストレスなど

・生活機能

<生命レベル>

 - 心身機能:体や心、内臓の働き、視覚・聴覚などの心理的機能と生理的機能

– 身体構造:内臓の器官や体の構成部分など、身体の解剖学的な分類

<生活レベル>

 - 活動:日常生活や社会生活における必要な行為や目的を持った行動

<社会的レベル>

 - 参加:家庭、社会などのコミュニティへの関わり、一員として参加しているか

・背景因子

– 環境因子:生活していく上での物理的、人的、社会(制度)的環境を構成するもの

 - 個人因子:年齢、性別、生活スタイル、考え方、生育歴など、個人固有の特徴

 

健康状態、生活機能、背景因子はお互いに影響し、生活機能の3つの要素も、また相互にかかわり合います。以上の要素と因子の組み合わせにより、ICFの分類は1500ほどの項目にわたり、その項目ごとに評価され、その評価点は国際的な方式でコード化することができます。

介護の現場で利用者さんのICF評価を行うには、前もって上記の構成要素の相関関係をあらわすワークシートの作成が欠かせません。事業所によりシートの書式は異なると思いますが、各項目のプラス面とマイナス面に着目して具体的に記入することで、生活の全体像が把握でき、できることと課題となることの把握につながります。ここで、その記入例を紹介しておきます。

 

・健康状態

 - 糖尿病、高血圧

 - 半年前に転倒して右足首を骨折

 

・生活機能

<心身機能・身体構造>

 - 筋力低下

 - 軽度の認知機能低下

 - 外出をためらうようになった

<活動>

 - 外出には杖を使用

 - ADL自立

<参加>

 - 骨折後、カラオケサークルをやめた

 - 近隣に友人が多い

 

・背景因子

<環境因子>

– 自宅は賃貸マンション、家の中はバリアフリー化していない(物理的環境)

– 近所に住む親戚に生活援助を依頼できる(人的環境)

– 近いうちに要介護認定を受ける予定(制度的環境)

<個人因子>

 - 72歳、女性、一人暮らし、夫と死別

 - 主婦、パート事務員としての職歴あり

 - 趣味はカラオケ、編み物

 

 

ICFの活用で利用者のQOL向上を

ICFは障害をマイナスの面からだけ見るのではなく、生活機能というプラスの面からさまざまな角度で「生きることの全体像」をとらえるための世界共通の分類方法です。介護現場ではICFを活用することで、利用者の生活機能にどのような事象が影響し、背景となっているかを知る手がかりになります。これにより、より適切な介護プランが策定でき、提供するサービスの質と利用者のQOL向上が期待できます。

 

 

 

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