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ジェノグラムってなに? 介護施設が知っておきたい入居者の家族構成
ジェノグラムは利用者の家族構成や家族間の関係性をわかりやすくした図表です。介護の現場では、介護施設への入居の際などにも用いられます。大事な個人情報になるため慎重に扱わなければならないジェノグラムですが、どうしてこのような情報が必要なのでしょうか? 今回はジェノグラムとはどのようなものか、また、その活用の仕方について解説します。
■介護施設におけるジェノグラムの有用性
ジェノグラムとは、家族構成やその関係性をわかりやすくした家系図およびマップです。少なくとも3世代分の家系図を、記号と線を用いるマッピング(図式化)という手法で視覚的にすみやかに把握できるよう表します。考案者は、アメリカのソーシャルワーカー、アン・ハートマンです。
ハートマンは児童福祉の分野において、社会福祉援助が必要な個人(クライアント)の問題には、その本人を取り巻く家庭環境や家族との関係性などが大きく影響することから、援助の際は本人だけでなく家族全体を視野に入れたアプローチが有効と考えました。これにもとづき、クライアントの家族構成を介護や医療・福祉関係者が視覚的に共有しやすく、効率よく記載できる方法として、1970年代末にジェノグラムが考案されたのです。
ジェノグラムは医療や福祉の分野で使われることが多く、介護の現場でも介護施設への入居の際のフェイスシートやケアプランを作るためのアセスメントシートなどに記載されます。適切な介護サービスを提供するには、介護対象者の個人情報と家族関係を把握する必要があるからです。しかしながら、高齢者の場合は家族関係が複雑なことも多く、こうした情報を文字だけで説明するのは煩雑になってしまいます。また、介護サービスは多様な職種や組織が関わるため、誰が見てもすみやかに理解できることが求められます。そこで、ジェノグラムの活用がすすめられているのです。
つまり、ジェノグラムづくりは介護を受ける人の家族構成の「見える化」といえるでしょう。高齢者本人を中心とした家族構成をシンプルな記号にし、マップのようにフラットに並べて分析することで、家族間の関係性やそれぞれの家族の立ち位置が把握しやすくなり、家族による介護の可能性、在宅介護あるいは介護施設への入所の可能性、また介護についての家族特有の問題なども見えてきます。現在の介護の状況から、将来の看取りを迎える時期の家族の関係性を把握するためにも使うことができ、高齢者本人が残された人生を安心して安全に暮らしていけるよう、生活環境を整えるための有用なツールになります。
■ソシオグラムやエコマップとは何が違う?
ジェノグラムは家族構成を図式で表すことによって、特有の課題や機微を把握することに使われます。
参考:ジェノグラムの作り方 厚生労働省
ジェノグラムを作ることで、家族関係の歴史や、本人を取り巻く現在の状況がわかりやすくなりますが、これと似た人間関係を示す手法としてソシオグラムやエコマップがあります。
ソシオグラムは、ルーマニアの精神科医モレノ(1889〜1974)によるソシオメトリー理論にもとづく人間関係の図表化の手法です。簡単にいえば、ドラマの登場人物を説明する人間関係の相関図のようなものです。小さな集団の中で個人を丸の記号とし、だれがだれに向けて、例えば、好き嫌いなど、どのような感情を持っているかを矢印で示します。
一方、エコマップは、上述のハートマン考案によるもので、利用者本人と家族の関係だけでなく、関連する施設やサービスなどの社会資源との関係もあわせて、記号や線で図式化したものです。エコマップを見れば、例えば、要介護状態の高齢者が実際にどのようなサービスを使っているのか、それが十分なのかといったことがわかり、ケアプランに関わる課題を見える化するのに役立ちます。
■ジェノグラムは活用することに意義がある
現場やスタッフによっては、あまりジェノグラムやエコマップなどを使っていないケースもあるかもしれませんが、まず、書いてみましょう。また、書くことが目的なのではなく、実際に活用することが大事です。記号を使って利用者の家族関係を図式化し、ソシオグラムやエコマップと組み合わせることで、利用者のQOLにかかわる、隠れていた課題が見えてくることがあります。家族構成および家族、社会との関係性の中で、その課題をどう改善するかということです。
そのためには、ジェノグラムなどを単なる家族構成図として見ていては十分とはいえません。特にアセスメントにおいては、ソーシャルワーカーと同様の分析的な視点を持ち、利用者の問題解決に反映させることが大切です。例えば、ある施設の入居者70代女性Aさんのケースを見てみましょう。
数年前夫を亡くし入所したAさんですが、このところ元気がない上、コロナによる外出制限がかかる中、施設を抜け出そうとしました。スタッフが話を聞くと、隣県にある夫のお墓に行こうとしていたとのこと。Aさんのジェノグラムによると、2人いる子供のうち長男は遠方に、長女は施設の近くに住んでいます。ソシオグラムでは、長男との関係は良好ですが、長女とは仲が悪く疎遠です。お墓は長男が承継するつもりでいますが、コロナの影響で行くことができていません。長女には相談できないため、夫と仲の良かったAさんはここ何年も年忌法要や墓参りができていないことを気に病んでいたのでした。スタッフの提案により、オンラインミーティングでAさんは長男と墓参りの代行や永代供養の相談をしました。これで、供養にまつわるAさんの心配はいったん収まりました。
しかしながら、Aさんの状況をジェノグラムやソシオグラムをあわせてみると、コロナ禍による面会の制限もあり、夫を亡くした喪失感や悲しみを身近な人と共有できていない可能性も考えられます。今後、その可能性を意識して傾聴をするなど、よりそっていく必要があるでしょう。
人の悩みとそこから派生する行動には、家族関係による課題が隠れていることがあります。そうした隠れた課題を見つけるのにジェノグラムを活用したいものです。利用者の問題を解決することはQOLの向上につながり、そのために役立ててこそジェノグラムの意義があるといえます。
*こちらの記事もご参照ください。
「ジェノグラムを活用して多職種連携をスムーズに行おう」
https://www.dearest-partners.jp/1806-2/
■ジェノグラムを分析する視点を養う
ジェノグラムは適切なケアプランを立てるための重要な情報です。家系図や記号の意味にとらわれず、対象となる高齢者の介護における「隠れた課題」を顕在化させる情報として分析する視点を養うことが大切です。そのことを頭に置きながら、介護現場で活用し、介護の質をレベルアップしていきましょう。