介護業務改善
介護の業務を改善するアイデアを紹介!「働きやすい介護事業所」を目指そう!
介護業界では、業務の改善が必要な事業所がたくさんあります。業務改善は介護スタッフの働きやすさの追求に不可欠な方法です。ちょっとした改善がスタッフの負担を軽減したり、業務効率化に役立ったりすることは珍しくありません。そこでこの記事では、働きやすい環境を整備するための業務改善アイデアを紹介します。介護現場における業務改善の必要性や目的、そして業務改善によってもたらされるメリットなど、それぞれを詳しく見ていきましょう。
介護の業務改善が求められている原因
昨今、日本では少子高齢化が進んでいます。生産年齢人口の減少とともに高齢化が深刻化しており、働き手が不足しているのにも関わらず年々介護のニーズは高まっているのです。同時に、現代は長時間労働の是正や均等待遇などを目的に「働き方改革」も推進されています。介護の現場も例外ではありません。特に介護業界は、数ある業界の中でも労働環境の改善が急務だと言われる業界の一つです。介護業界は長時間労働などが常態化している傾向があり、離職者が多く慢性的な人材不足が悩みの種となっています。そもそも、働き方改革とは2019年4月に施行された法案です。企業側が労働者の労働時間や休暇のルールを厳守することによって、労働者の心身の健康を保ち、過労死やうつ病などの精神疾患を防ぐためのものです。この法案では、月40時間、年360時間の長時間労働の上限規制、そして年間5日以上の有給休暇の取得が事業者に義務付けられています。さらに、2019年3月に厚生労働省が作成した「介護現場革新会議 基本方針」では、「人手不足の中でも介護サービスの質を維持・向上できるマネジメントモデルの構築」「介護業界のイメージ改善と人材確保」「介護用ロボット・ICTの活用」への取り組みが提起されています。昨今の日本の現状や働き方改革、介護現場における基本方針から見ても、現場の生産性を向上させることが急務だとうかがえるでしょう。現場で働くスタッフにより良い環境で活躍してもらえるよう、効率良く働ける仕組みづくりが大切です。
介護現場の業務改善を実施するメリット
続いて介護の現場に業務改善が必要であること踏まえ、具体的にどのようなメリットが得られるのか詳しく解説します。メリットを知ったうえで自社に必要だと考えられる業務改善をイメージしておくとよいでしょう。
■労働者同士のコミュニケーションが図れる
どのような業種・職種においても重要な問題となるのが「人間関係の悩み」です。介護の現場でもスタッフが退職する理由の上位に常に上がっており、その理由もさまざまです。たとえば同僚との人間関係だけでなく「管理者・施設長の仕事ぶりに不満がある」「利用者との関わり方に悩んでいる」などさまざまなものがあり、決して一括りにはできません。人間関係の悩みは当事者が一人で解決できるものではなく、スタッフに精神的な負担がかかりやすくなります。こうしたストレスは利用者のケアの質にも関わってくる問題なので、早めに対処する必要があるのです。業務改善によって日頃の業務のムダを削減し、スタッフ間のコミュニケーションが活性化させる仕組みを作れば、現場の人間関係を良好に保ちやすくなります。
■採用や教育のコストを削減できる
介護の現場で業務改善を行うと、採用や教育コストが削減できる可能性があります。スタッフを採用、さらに現場の即戦力となるよう教育するには多大なコストがかかります。一般的に正社員一人の入社後3年間で教育にかかるコストは約1000万円とも言われており、スタッフが一人辞めるだけでも、大きなコストと労力が水の泡となってしまうのです。採用や教育にかかるコストをできるだけ軽減するためにも、業務改善による今必要な業務内容の明確化が大切です。
■労働者のニーズに対応できる
業務改善は、現場で働いてくれる介護スタッフのニーズに対応できる力をつけることができます。いくらスタッフが介護職を心から希望して入社したとしても、実際の労働環境が整っていなければ長く働いてはくれません。「長時間労働にも関わらず待遇が良くない」「日々の努力が待遇に表れず精神的につらい」など、スタッフが離職するきっかけを作ってしまいます。業務改善を行えばスタッフが業務に専念しやすい環境を作れるだけでなく、採用時も高待遇をアピールすると優秀な人材が集まりやすくなる傾向にあります。現場の介護スタッフのニーズをよく理解したうえで、業務改善に取りかかってみてはいかがでしょうか。
■介護経営の安定化につながる
介護現場の業務改善は、ES(従業員満足度)が向上し離職率の低下につながります。さらにESの向上は介護におけるケアの質を保つことができ、CS(顧客満足度)の向上にも結びつくので経営が安定しやすくなるのです。業務改善による経費や人件費削減などのメリットは、スタッフに限らず企業にも良い影響をもたらします。ところが業務改善が行き届いていない介護事業所は、経営の基礎づくりが甘くなりがちです。より良いサービスの提供、スタッフの働きやすさを追求することは難しくなり、経営が立ち行かなくなるリスクは強まります。今後の介護市場では、業務改善が必須となるでしょう。
業務改善における目的
介護業界において、業務改善のゴールは「人が辞めない介護現場づくり」です。効率よく業務改善を行うために、まずは介護業界の離職率について理解を深めることが重要です。離職率の現状や計算方法、事業所が目指すべき離職率について紹介します。
■介護現場における離職率の現状
介護職員の離職率は年々低下している傾向があります。公益財団法人介護労働安定センターが令和元年度に実施した「介護労働実態調査」によると、訪問介護員・介護職員の離職率は 15.4%(2職種計も15.4%)でした。昨年度と比較すると離職率は横ばいの傾向が見られます。 一方、令和元年度の国内労働者全体の離職率は15.6%と、介護職の離職率とほぼ変わりません。ところが、介護労働安定センターの同調査によると「人材不足感は依然として高い状況」という結果が出ています。介護サービスに従事する従業員の不足感は全体で65.3%と、とくに訪問介護員の不足感は81.2%と最も高い数字が見られます。原因としては同業他社との人材獲得競争が厳しくなっていることが挙げられるため、離職率と同様に採用率にも目を向ける必要があるでしょう。
■離職率の計算方法
介護現場の業務改善を実施するには、事業所の離職率を知ることが大切です。離職率を求めるときの計算式は「離職率=離職人数÷介護従事者数×100」を使うことで計算できます。この計算式は厚生労働省が実施しているもので、一般的にも浸透しています。たとえば、2019年4月1日に入社した介護スタッフ10人のうち、3人が3年後(2022年4月1日)までに退職した場合を考えてみましょう。計算式に数字を当てはめると「3人(3年の離職人数)÷10人(入職者数)×100」となります。このまま計算していくと「0.3×100」という式が出来上がり、「離職率=30%」が導き出されます。事業所内の離職率を確認したいときは、該当期間の離職人数と入職者数を把握しておくと、よりよい業務改善に繋がります。
■介護事業所が目指したい離職率
離職率が求められたら、介護事業所が目指すべき離職率と照らし合わせ、事業所が置かれている現状を掴みましょう。介護事業所が目指すべき離職率は、新卒採用と中途採用で分けられています。まず新卒採用の場合、入職後1年未満の離職率は10%、入職後3年以内の離職率は25%です。対して中途採用の場合では、入職後1年未満の離職率は5%、入職後3年以内の離職率は15%と、新卒採用よりも低く設定されています。これらの数字を上回っている介護事業所は、できるだけ早く対策を練っておくべきではないでしょうか。離職率が高い現場は、労働環境や待遇に原因がある場合がほとんどです。現場で働く介護スタッフのニーズを根気強く汲み取り、的確な業務改善を行うことで徐々に離職率の低下が見えてくるのではないでしょうか。
介護の業務を改善するアイデア
介護現場における業務改善の必要性について紹介してきましたが、改善に成功している事業所ではどのようなポイントが重視されているのでしょうか。早速、具体的にチェックしていきましょう。
■ICTを導入しているか
介護現場の業務改善に欠かせないのが、ICTの導入です。ICTとは情報通信技術を意味しており、IT技術を使い人々の暮らしを豊かにするために利用されています。ある介護事業所では情報処理事務作業の生産性を向上させるよう、各種サービスの提供記録と介護報酬請求が連動するタブレットを導入しました。その結果、業務時間が大幅に削減され、1ヶ月あたりの残業時間が10時間も削減されたのです。ICTの導入によって、日々のムダな業務内容が可視化されるので余計な時間を業務に費やさずに済みます。
■ICTのマニュアルを作っているか
業務改善のために闇雲にICTを導入しては効果が半減します。ICTの活用をスタートするならば、事前にICTのマニュアルを作成しておいたほうが良いでしょう。マニュアル作成が抜けていると「操作方法や手順などが分からない」など、スタッフ間に混乱が発生する恐れがあり、十分な効果は得られません。さらにスタッフに向けて、導入するICTの操作方法に関する研修などの実施も必要不可欠です。ICTの導入とマニュアルの作成はセットとして考えておきましょう。
■業務に必要な書類はすべてICT化しているか
「介護業務にICTをどこから導入したら良いのかわからない」という方は、まず必要書類をICT化しましょう。これまでほとんど紙ベースで書類を作成している事業所は、できるだけ書類をICT化することによって大幅な業務改善を実施できます。たとえばシフト表や職員への連絡などの中間管理書類はすべてICT化することをおすすめします。書類のICT化が徹底されれば労力だけでなく、資源コストも削減することが可能です。ICTに不慣れな事業所は、まず書類のICT化から取り掛かりましょう。
■介護現場の整理整頓はできているか
業務改善に必要なのはICTの導入だけではありません。介護の現場において、整理整頓ができているかどうかも重要なポイントです。事業所内に余計な書類が散乱していたり、書類がしっかりとまとめられていなかったりすれば、いざ必要になった際に探す手間や時間が必要以上にかかってしまいます。「ファイルや書類が見つからない」といったストレスをなくすためにも、現場の整理整頓には力を入れるようにしましょう。不要な書類はすぐにシュレッダーにかけておくなど、基本的な業務から見直してみましょう。
■業務をすべて把握できているか
業務改善を行うには、今ある業務をすべて把握していることが大切です。業務の全貌が把握されていなければ、何を改善すれば良いのかが分からなくなってしまいます。業務のどのような点を問題としているのかが不明瞭なままだと、業務改善を実施しても余計な業務が増えるだけで却ってスタッフに負担が生じるのです。業務効率に影響する業務や会議はないかなど、客観的な視点で業務を振り返るようにしてみると良いかもしれません。これまでの当たり前を疑問視することで省くべき業務が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
■多職種との円滑な連携を取れているか
介護の現場では、多職種との連携により業務が改善されるケースが多くあります。介護施設は生活支援のほか、医療的なケアやリハビリケアができる体制が求められています。その中でより質の高いサービスを提供するには、スムーズな多職種連携が不可欠です。たとえば介護スタッフと看護師の連携を密に取ることで、看護師が医療的な知識を、介護スタッフ様が生活支援に関する技術をレクチャーできます。このような知識やスキルの共有がスタッフ一人一人の能力を高めるほか、不要な負担を減らすことも可能となるでしょう。
■休憩時間は適正に取れているか
先にお話ししたとおり、業務改善のゴールは「人が辞めない介護現場づくり」です。すべてのスタッフに長く活躍してもらうには、1日の業務において休憩時間を適正にとれているどうかという点がカギをにぎっています。休憩時間が適正に取られていなければスタッフの不満が溜まり、さらにストレスも蓄積されやすく精神疾患を患ってしまう原因にもつながります。休憩時間は労働基準法にも定められており、労働時間が6時間以上・8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えることが義務付けられているので注意しましょう。
■1週間内の残業時間は1時間以内か
1週間内の残業時間が1時間以内であるかどうかも、業務改善を行う際の重要なポイントです。労働基準法では勤務時間の上限について1週間40時間、1日8時間と決まっています。定められた時間を超えると、それは法定時間外労働、つまり「残業」と見なされます。業務改善を行うからには1週間内の残業時間は1時間以内を目標に縮めるよう努力してください。全スタッフの残業時間が1時間以内になるまで、どのような業務改善ができるかを考え続けましょう。
■現場における3年以内の離職率は把握しているか
介護業界に限ったことではありませんが、業務改善を行うにあたって3年以内の離職率を把握することがとても大事です。先に介護事業所が目指したい離職率を紹介しましたが、その数字と照らし合わせて、客観的にどのような状況に置かれているのかを知っておきましょう。また、スタッフの退職理由などは業務改善のヒントが詰まっているので、退職する人の気持ちに配慮しつつヒアリングを実施することをおすすめします。
■職員が進んで立案できる環境か
実りのある業務改善の案は、現場で働く介護スタッフの声がヒントになります。しかし、スタッフ間で改善案が立案されにくい環境だと、意見交換は活発化せずいつまで経ってもスタッフの負担は軽減されません。いくらスタッフが改善案を提出しようと「前例がないと否定されてしまう」「上司が怖くてなかなか本音を言えない」など、業務の前に環境を改善しなければならないケースも多くあります。心当たりのある事業所は、まずスタッフが進んで改善案を立案できる環境を用意しましょう。
まとめ
介護現場における業務改善は、働き方改革が実施される今日では直ちに取りかかるべき課題の一つです。介護事業所は、現場で働いてくれるスタッフで成り立っており、優秀なスタッフに長く活躍してもらうには業務改善によって労働環境を整えることが必要なのです。業務改善のゴールは離職率の低い労働環境を実現することと言っても過言ではありません。業務改善によって労働環境を整備すれば、自然と待遇も充実します。それは結果的に採用活動にも大きく影響するため、それぞれの事業所に合った人材の採用にも直結します。まずは事業所内にどのような業務があるのかを洗い出し、改善が必要なポイントの把握から始めましょう。その際はスタッフの協力や理解を得られるよう、事前にきちんと話し合うことも意識しておくと良い方向に向かうでしょう。