ICT活用
介護職の新人教育の場にこそ活用したいICT
質の高い介護サービスを提供するためには、職員の介護技術や知識の習得が欠かせません。その基礎づくりともいえるのが、新人教育です。新人教育は、早くから準備をしておき、指導方法や研修・教育内容を固めておきたいものです。しかし、日々の業務に追われ、準備が十分にできないまま、新人教育が始まってしまう現場も多いのではないでしょうか。そこで提案したいのが、ICTを活用した新人教育です。介護職の新人教育の現状とともに、新人教育の場で活用したいICTについて紹介します。
介護職の新人教育現場の現状
介護職の新人教育では、先輩職員と一緒に実際に仕事をしながら技術や知識を覚えていく、OJTが採用されていることがほとんどです。OJTでは、先輩職員が指導役となり、身体介護や介護記録、利用者とのコミュニケーションなどの、仕事の多くを新人に伝授します。介護の現場では、利用者によって心身の状況や対応の仕方などが違うため、OJT によって、研修やマニュアルでは学べない実践力を習得できるのです。指導者にとっても、新人の学習状況を確認しながら実務指導ができるというメリットがあります。
しかし、介護職の多くはシフト制のため、新人に毎回同じ人が指導を行えるとは限りません。一貫した人材育成の仕組みが構築されていない場合、人によって教え方や指導内容が変わることもありえます。その結果、新人が混乱してしまい、正しい技術や知識が身につかなくなってしまいます。実際に、「〇〇さんはこう教えてくれたのに、××さんには違うと言われてしまった」といった声が、介護現場で上がっているのです。
日常業務が忙しく新人教育まで手が回らない場合、新人に指導担当者を付けられないということもあります。公益財団法人介護労働安定センターが公表した「令和2年度介護労働実態調査」によると、労働条件・仕事の負担についての悩み、不安、不満などに関する質問の回答でもっとも多かったのは、「人手が足りない」(52.0%)でした。介護保険サービスの種類別でみると、施設系(入所型)がもっとも高く、70.4%となっています。また、指導担当者の有無についての調査結果は、「いた」が51.5%でした。このような結果から、人手不足により新人教育が思うように進められていない状況が読み取れるのではないでしょうか。
介護職の新人教育をICT化するメリット
新人教育を円滑に進めることは、新人を独り立ちさせる期間の短縮につながります。それによって、ひとりでも多くの即戦力を早く得られることになります。しかし、上述したように、現場の人手不足により、新人教育まで手が回らないというのが現状です。そこで活用したいのが、新人教育のICT化です。
近年、国は介護現場のICT化を進めています。これまでの介護報酬改定でも、ICT化を推進する方針が明記されてきました。2021年の介護報酬改定では、ICTを使用した場合の夜間帯の人員配置基準を緩和し、多職種連携におけるICT導入として、テレビ電話等における会議を認めています。
介護現場で新人教育にICTを活用すると、次のようなメリットがあります。
指導方法を統一しやすい
新人教育のICT化として導入しやすいのが、マニュアルの電子化です。特に、画像や動画によるマニュアルがあると、指導方法が統一しやすくなります。前述したように、介護現場では同じ人が毎回指導に当たることが難しい状況です。もし、電子化したマニュアルがあれば、指導者が変わってもマニュアルを確認しながら実務指導ができるようになります。その結果、「人によって教え方が違う」という問題が起こらなくなり、指導方法の統一化が図れます。
指導時間を短縮できる
新人のうちは、「同じことを先輩に何度も質問しにくい」「忙しそうで声をかけられない」といったことが起こりがちです。そんなときに、動画によるマニュアルがあれば、新人が自主的に確認して学べるようになります。例えば、指導を始める前にマニュアルで予習させるようにすれば、理解度を上げられます。指導後に、マニュアルで復習させるといった使い方も有効です。指導する側としては、マンツーマンで教える時間を減らせるため、業務を効率的に行えるようになるでしょう。
効果的に指導が行える
新人教育に使われるチェックシートをICT化すると、チェック項目の統計を簡単にとることができます。一人ひとりのデータが蓄積されることで、それぞれの得意分野、苦手分野が可視化され、より効果的に指導を行うことができるでしょう。また、多くの新人が苦手としている項目があれば、指導内容や方法を見直すことで、より効果的な指導が可能となります。
タブレット端末を活用した介護の新人教育
介護職の新人教育におけるICT化でもっとも導入しやすいのが、タブレット端末です。タブレット端末は持ち運びが容易で、いつでもどこでも気軽に使うことができます。介護現場の新人教育でどのようにタブレット端末が活用できるのか、具体的に見ていきましょう。
日常業務の指導時
日常業務は、新人に一番初めに覚えてもらう仕事です。介護現場では、実際に一緒に仕事をしながら覚えてもらうこと、つまりOJTが多くなります。新人にとってはすべてが初めての業務であるため、理解しにくい場面もあるでしょう。このようなときにタブレット端末を活用して、マニュアルや一連の流れを確認しながら実際の作業を見ることができれば、初めてでも理解しやすくなるでしょう。
新人の自己学習時
新人教育の場面では、指導担当が不在、または手が離せないときもあるでしょう。このようなときにタブレット端末があれば、新人に自己学習させることができます。はじめのうちはマニュアルの確認や新人教育用チェックシートの記入を、慣れてきたら利用者の情報収集や介護記録の参照などにも活用できるでしょう。
新人との面談時
ICT化した新人教育用チェックシートは、紙媒体に比べて統計がとりやすく、グラフ化もしやすいという利点があります。グラフは技術レベルや目標の達成度がひと目でわかるため、指導者にとっては指導のポイントが絞りやすくなります。新人にとっては、学習進度を可視化できるため、モチベーションの向上につながるでしょう。
自社内での研修時
自社内で行う研修にタブレット端末を導入すると、動画やネット配信サービスの活用がしやすくなります。特に、ネット配信サービスによる研修を受講することで、これまで自社では行えなかった内容も補えるため、新人職員だけでなく職員全体のレベルアップが期待できるでしょう。
指導者間での振り返り時
指導者間で新人教育について振り返りを行うときにも、タブレット端末が便利です。新人チェックシートの内容や新人教育計画などの情報共有がしやすいだけでなく、内容の修正もその場で行えます。また、Web会議ツールを活用すれば、離れた場所にいる職員も参加できるため、より多くの意見を取り入れられるでしょう。
参考:
- ICTツールを導入したデジタルマニュアルの活用|社会福祉法人旭生会
- 介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン|厚生労働省
ICT活用で介護の新人教育を効率的に進めよう
マニュアルや新人チェックシートの電子化、タブレット端末の活用といった ICT化は、はじめはうまく浸透しないかもしれません。しかし、長い目で見れば、新人教育の内容を改善し、より効率的に指導を進められるでしょう。まずは、画像や動画の活用や、新人チェックシートの一部電子化など、できることから少しずつ導入してみてはいかがでしょうか。
参考:
- 令和2年度介護労働者の就業実態と就業意識調査|介護労働安定センター
- 令和3年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省
- ICTツールを導入したデジタルマニュアルの活用|社会福祉法人旭生会
- 介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン|厚生労働省