介護ニュース
一時帰宅を穏やかで安全に過ごしてもらうための注意点
2020年1月から始まった新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、介護施設では、2021年12月現在でも入居者の面会や、外出・一時帰宅などを制限せざるをえない状況が続いています。その一方で、ワクチン接種の状況については、2回接種した人の割合が国民全体で77.4%、65才以上の高齢者で91.5%となり、諸外国に比べ非常に高い割合です(2021年12月13日現在)。そのため、社会活動も徐々に再開の兆しが見えています。中止を余儀なくされていた、施設内外での活動の再開を検討している介護施設もあるでしょう。しかし、入居者が楽しみにしている一時帰宅は、万全な事前準備と事後のケアが必要となります。今回は、年末の一時帰宅に焦点を合わせ、どのような点に気をつければよいかについて、詳しく見ていきましょう。
今年の一時帰宅は例年以上に入念な準備が重要
例年の年末年始などの一時帰宅前も、入居者が自宅で快適に過ごせるように、万全の準備を整えていることでしょう。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響がまだ大きく残っているため、例年以上に感染症に対する入念な準備が必要です。
感染症への対策
新型コロナウイルスへの対策も、インフルエンザや肺炎など、ほかの感染症対策と基本的には同じです。しかし、現在世界的な流行期にある感染症であるため、手洗いやうがいなど基本的な予防はもちろん、「コロナ流行前」とは少し異なる対応も必要です。
まず、マスクの着用です。新型コロナウイルス感染症の流行前は、インフルエンザの流行期を除きマスクを着用する人は少ない状況でした。しかし今年は、外出時に必ず正しくマスクを着けるように、入居者の家族にも伝える必要があります。高齢者の中には、マスクを外してしまったり、正しく着けられなかったりする方もいるため、家族が気をつけて様子を見守るように話しておきましょう。
また、感染予防の観点から、一時帰宅の少し前に、家族にPCR検査や抗原検査を受けてもらうことも対策として有効です。ただし、人によっては検査に対する考え方に違いがあることは踏まえておきましょう。
そのほかの注意点として、いつもの生活サイクルを乱さないことも挙げられます。年末年始に一時帰宅する場合には、自宅でついつい夜ふかししてしまったり、食事時間が不規則になったりする傾向が見られます。しかし、一度乱れた生活サイクルを元に戻すことは簡単ではありません。免疫力の低下防止という面から見ても、規則正しい生活が重要であることを説明して、家族や本人の理解を得ましょう。
家族への連絡事項を確認
例年であれば年に数回一時帰宅しているのに、新型コロナウイルス感染症の流行によって、約2年間まったく一時帰宅できていないという入居者もいるでしょう。そのような場合には、家族への連絡事項も詳細に伝える必要があります。
例えば、体調の変化です。高齢の入居者の場合、短期間で体調が変化することも多く見受けられます。よく眠れ、よく食べていた人であっても、「不眠傾向になってしまった」、「嚥下(えんげ)機能が少し低下し、きざみ食を食べている」などの変化が生じていることがあります。家族の認識にズレがないように気をつけましょう。
また、この2年間に杖や車椅子が必要になっているケースもあるでしょう。介護ベッドが必要な場合もあるかもしれません。入居者が必要とする介護用品が準備されているかということは重要な確認事項です。介護用品が整っていない場合には、レンタル利用を提案してみましょう。ただし、一時帰宅の場合には介護保険の適用外となるため、福祉用具のレンタルは自費負担となります。地方自治体のなかには、一時帰宅中の介護用品や介護サービスに対して補助金制度を用意しているところもあるので、問い合わせてみるとよいでしょう。
緊急時の対応も決めておく
一時帰宅中に転倒によるけがをしたり、体調が悪化したりする可能性があるため、家族に緊急事態に備えてもらうことも必要です。自宅の近くに、緊急時に診療可能なクリニックや病院があるかを確認してもらいましょう。入居者本人が保険証を持っている場合には、一時帰宅時に忘れずに携行するよう気にかけておきます。
参考:一時帰宅した時は(在宅復帰支援サービス費):市の在宅介護支援事業|神栖市
自宅で安全に過ごすため、家族へのアドバイスを積極的に実施
入居者が待ち望んでいた一時帰宅を、いかに安全に過ごしてもらえるかは、介護施設の職員が入居者の家族に対して、いかに適切なアドバイスを実施できるかにかかっています。入居者を元気に送り出し、元気に再び迎え入れるためには、どのようなアドバイスをすればよいのでしょうか。
自宅での住環境の整備を
一時帰宅する自宅の住環境の整備をアドバイスしましょう。
年末年始を含む冬季には屋内を暖かくしておくことは重要ですが、特に気をつけたいのが、トイレとバスルームの室温です。居間は暖かいもののトイレやバスルームの室温が低いと、急激な温度差を経験することとなり、脳卒中や循環器系の発作につながることがあります。トイレやバスルームに電気ストーブのような簡易的な暖房を用意しておくことを提案してください。その際には、火災対策を十分に取るように申し添えましょう。
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスによる感染症対策では、室温だけではなく、乾燥にも要注意です。低温だけではなく、空気の乾燥は上気道の粘膜の免疫能力を低下させるといわれています。また、乾燥状態では、くしゃみなどの飛沫から水分が蒸発し、ウイルスが空気中に長時間漂いやすくなると考えられています。室内の湿度が低くならないよう、加湿器を用意しておくことを提案しましょう。
さらに、家の中の段差や滑りやすい場所の対策も重要です。一時的に滑り止めのテープを貼る、廊下に置いてある荷物をどかしておくなど、高齢者の動線を考えた対策を提案しましょう。
人が集まることへの注意
正月のような大きな行事があるときには、親戚一同が集まることも多いでしょう。特に、一時帰宅で「おじいちゃん、おばあちゃんが久しぶりに帰ってきた」となれば、なおさら集う人数が増えるかもしれません。入居者にとっても家族にとっても、それはかけがえのない時間です。
しかし、現在のコロナ禍の状況下では、人が集まることは懸念事項ともなります。同居する家族以外の人との面会はなるべく短時間にして、お互いにマスクを必ず着用するなどの感染対策を忘れないようにアドバイスするとよいでしょう。
参考:冬の感染症対策 カギは喉の保湿・保温と腸内環境|日本経済新聞 電子版
参考:インフルエンザウイルスの寿命は湿度で決まる|ウェザーニュース
参考:年末年始の一時帰宅、ここだけは気をつけて|オールアバウト
施設に戻ってくるときに確認することや気をつけたいこと
一時帰宅を終えて施設に戻ってくる際には、施設ごとのガイドラインやマニュアルに従って受け入れを行います。特に確認したいことや気をつけたいことについて、以下に紹介します。
入居者に安心してもらうために
施設に戻る日が来ると、自宅での生活が名残り惜しくなって不安になる入居者もいるかもしれません。家族に二度と会えなくなるわけではなく、今後も一時帰宅は可能なことを丁寧に説明しましょう。家族からも、次回の一時帰宅の予定をあらかじめ伝えてもらうと、本人も安心することが多いようです。例えば「今度はお彼岸のときに一緒にお墓参りに行こうね」と具体的に伝えるとよいでしょう。
家族からの聞き取り
施設に戻るときには、入居者の様子や変化について家族から聞き取りを行いましょう。内容は、睡眠の状況、食事の量や精神状態などです。聞き取った情報をもとに、入居者の様子を施設側でも確認します。
また、服用中の薬がある場合は、忘れずに服用していたかどうか残数を確認します。
そのほか、現在の状況下では、発熱など健康状態のチェックを2週間程度は継続して行いましょう。
ほかの入居者のためにも、さまざまな状況を見て判断を
今年、もし一時帰宅が可能と判断されれば、入居者や家族の喜びは大きいことでしょう。しかし、コロナ禍の状況では、介護施設の職員も入居者の家族も、例年以上に感染症対策を意識する必要があります。これは、一時帰宅する本人はもちろんのこと、ほかの入居者にも大きく影響することだからです。
一時帰宅が可能かどうかの判断の際には、施設の基準だけではなく、その時点での国や都道府県、市町村の最新の指針についても確認が必要です。場合によっては、提携する医療機関や在籍する看護師などとの連携も重要でしょう。
入居者の多くは一時帰宅を楽しみに待ち望んでいるでしょう。介護施設の職員にも、なるべくその希望をかなえてあげたいとの思いがあるでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症はいまだ終息していません。ワクチン接種や治療薬の開発などの光明は見えていますが、先行接種を実施した高齢者では、抗体価低下によるブレイクスルー感染も問題となっています。コロナ流行前のような気軽な一時帰宅が難しい現在、もうしばらくは、慎重な判断と感染症対策が求められる時期が続くかもしれません。
参考:すべて本文中に記載