介護業務改善
介護従事者を悩ます利用者からのハラスメントの実態
近年、介護現場で大きな問題となっているのが、利用者や家族による介護従事者へのハラスメントです。ハラスメントの問題は仕事への意欲を下げることになるため、早期対応が必要です。しかし、ハラスメントの実態や状況がなかなか把握できず、悩んでいる管理者や責任者もいるのではないでしょうか。そこで、今回は介護現場におけるハラスメントの実態と当事者の悩みについて、詳しく解説します。
介護現場でのハラスメントの実態とは
介護現場で受けるハラスメントには、利用者からのハラスメントと利用者家族からのハラスメントがあります。それぞれのハラスメントの実態はどのようになっているのでしょうか。詳しく見てみましょう。
利用者からのハラスメント
厚生労働省が公開する資料「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」によると、介護従事者の約半数がこれまでに利用者からハラスメントを受けたことがあると回答しています。2018年に発生したハラスメントの内容別では、身体的暴力が入所施設で多く見られており、特別養護老人ホームでは、ハラスメントの約9割が身体的暴力となっています。入所施設以外では、認知症対応型通所介護でも身体的暴力が多い傾向があります。
一方、通所や訪問サービスでは、精神的暴力が大きな割合を占めています。精神的暴力とは、暴言や大声を出す、契約上や制度上できないサービスの強要などをいいます。この精神的暴力を受ける割合がもっとも多いのが、訪問介護です。訪問介護の場合、契約時にできることとできないことを説明しているものの、利用者が理解するに至っておらず、実際の利用時に精神的暴力につながるケースが多くなっていると考えられます。
家族からのハラスメント
前出の調査では、これまでに家族からのハラスメントを受けたことがある介護従事者は1~3割で、利用者本人からのハラスメントと比べると少ない結果でした。2018年に発生したハラスメントの内容で見ると、サービス種別にかかわらず精神的暴力が8割以上と圧倒的に多いのが現状です。
家族からのハラスメントの事例としては、「ヘルパーに家族分の調理や掃除を要求する」「通所から帰ってきた利用者の車いすの位置が1ミリずれていると激高して電話してくる」などがあります。
家族からのハラスメントの原因には、家族が介護疲れで余裕がなくなっており、たまったストレスのはけ口にされていることなどが考えられるでしょう。
ハラスメントと休業、退職
ハラスメントを受けた介護従事者の状況を見てみると、ハラスメントを理由に休む人は3%未満と少ないことがわかります。ただし、ハラスメントを受けたことでけがや病気になった人は約13%となっています。特に特別養護老人ホームで多く見られることから、身体的暴力によるけがが多いのではないかと推測されます。
では、退職についてはどうでしょうか。ハラスメントを理由に辞めたいと思う人は2~4割ほどで、特別養護老人ホームや定期巡回介護看護における割合が高くなっています。実際に辞めたことがある人は1割程度で、もっとも高い数値を示したのは訪問介護でした。精神的暴力が大きな割合を占める訪問介護は1対1で対応することも多いため、精神的負担が大きく、退職につながることが多いのではないかと推察されます。
相談状況から見るハラスメントを受けた介護従事者の悩み
介護従事者がハラスメントを受けたとき、周りの人に相談する人は多いのではないでしょうか。前述のハラスメント実態調査によると、上司や同僚に相談したことがある人が5~8割となっています。
しかし、周りに相談しない、できないと考えている人もいるでしょう。実際に、相談しないと回答した人も全体の2~5割を占めています。相談できない理由としては、ハラスメントの原因は利用者や家族の病気、環境などによるものからと考えている人が多いことがわかりました。このような場合は、相談しても状況が変わらないことは多いのではないでしょうか。実際に、相談したが結果は変わらないとの回答が約5割となっています。
しかし、相談すること自体はけっして無駄なことではありません。相談相手が対応した内容を見ると、「ハラスメントの事実を認めてくれた」が半数以上を占めています。ハラスメントを受けた人にとって、その事実を認めてもらうだけでも心が軽くなるものです。また、「今後の対応策を明確に示してくれた」「具体的な対応について話し合いの場を設けた」といった回答も多く、相談することでなんらかの効果が得られたことがわかります。相談した結果、ハラスメントが「おさまった」と回答した人も2~4割あります。さらに、相談することで情報が共有されるため、ハラスメントを受ける人を減らし、具体的な対応策を検討するきっかけにもなるでしょう。
「相談してよかった」という環境づくりがハラスメント対策の第一歩
利用者や家族からのハラスメントは、実際に受けた人からの情報を聞き取ることが大変重要となります。まずは相談しやすい環境をつくり、ささいな情報でも集まるようにしておきましょう。そのためには、たとえ相談した結果が変わらなくても「相談してよかった」と思われるような対応を心がけ、だれもが話しやすく相談しやすい体制をつくることが大切です。