どうなる?2021年度介護報酬改正・介護人材の確保

2021年度の介護報酬の改定率は全体でプラス0.70%となり、細部にわたる具体的な単位数や要件などの変更、追加があります。今回の改定では、新型コロナウイルス感染症への対応に関する評価設定をはじめ、地域包括ケアシステムの推進、自立支援・重度化防止の推進、介護現場の革新・介護人材の確保、制度の安定性・持続可能性の確保の各項目で見直しが盛り込まれています。2022年度には約800万人ともいわれる団塊の世代が後期高齢者の年齢を迎えるなかで、その対応に向けた介護人材の確保問題に焦点を合わせて見ていきます。

介護人材確保・介護現場革新に対応・見直しポイントまとめ

まず、介護スタッフの処遇改善や職場の環境改善の実効性向上を目的として、下記のような項目の見直しがはかられています。

  • 特定処遇改善加算
  • 仕事と育児や介護との両立が可能となる働き方の環境整備
  • サービス提供体制強化加算
  • ハラスメント対策

次に、テクノロジー活用、人員および運営基準の緩和による業務の効率化、負担軽減化に言及しています。特別養護老人ホーム(特養)などにおいて見守り機器100%導入推進や、インカムなどのICT機器を使用した介護の質の向上と業務の効率化を推進するため、新たな加算区分が設定されます。特養の夜間の人員配置基準も緩和されます。また、感染防止や多職種連携の観点から、運営基準や加算の要件などに関して行う会議を、テレビ電話などで実施することもを認められます。

多忙をきわめる現場スタッフのために、文書作成や手続きの簡素化、効率化による負担軽減も推進しています。具体的には利用者への説明や同意、諸記録の保存交付などについて、署名や押印を求めず電磁的な対応をすることが原則許められます。

喫緊の課題、介護人材確保のための定着促進

介護関係職種の有効求人倍率は、2019~2020年において4前後(求職者1に対して4倍の求人量)を推移して高止まりの状態です。つまり、求人をしても応募や入職が容易ではないという厳しい状態が持続していることを示しています。介護事業者にとって人材の確保は、もっとも大きな課題のひとつです。そのために、今回の介護報酬改定にも、スタッフの離職防止、定着を進めるためのさまざまな具体的方策が提起されています。

たとえば、介護福祉士資格取得のための受講費用の支援や、勤務スケジュールの調整に応じるといった、キャリアパス生成の資質向上への協力も有効策のひとつです。

介護現場で多くのスタッフを悩ませる、介助時の肉体的負担に起因する腰痛やケガなどの防止のために、介護ロボットを積極的に導入することも重要です。「押さない、引かない、持ち上げない、ねじらない、運ばない」といった、「ノーリフティングケア」への積極的な取り組みも、大切なテーマのひとつになります。

今回の介護報酬改正で、より明確に打ち出されたのがハラスメント対策の強化です。介護職員の4~7割が利用者からのハラスメントを経験していることが調査で明らかになっており、事業者はこれまで以上に、実態の把握と改善への取り組みに力を入れなければなりません。特に介護職員を守るためには、利用者やその家族へのしっかりとした明確な対応が必要です。そのため、すべての介護サービス事業者が必要な措置を講じなければならないことを規定しました。

スタッフが「辞めない」事業所づくりに必要な取り組みとは?

今回の介護報酬改定に盛り込まれたテーマ、「介護人材の確保」は、求人対策にそれぞれの事業者の創意工夫が必要であり、企業努力が求められていくことを意味しています。今後は、多くの人材が集まる人気事業所と、旧態依然として人手不足に悩み続け、廃業をせざるをえなくなる事業所の二極化傾向が進む可能性があります。

勝ち組になるためには、スタッフが辞めない魅力的な職場づくりが重要です。まずは、現状で全産業平均よりも8.5万円低い(厚生労働省資料「令和3年度介護報酬改定に向けて(介護人材の確保・介護現場の革新)」より)給与レベルを、企業努力で改善していく必要があります。エルダー・メンター(新人指導担当者)制度を積極導入して、仕事の技術面から個人的な悩みまで精神的なサポートをしっかり行うことによって人材を育てる努力も必要でしょう。また、定着率向上に有効と考えられるキャリアアップを積極的に支援することも重要です。離職理由の1位である「職場の人間関係に問題があったため」(同上資料)の改善をめざしてコミュニケーションを円滑化し、楽しい雰囲気へと職場のイメージを変えていくとよいでしょう。ICTや介護ロボットの積極導入により、「きつい、汚い、危険」という介護3Kの時代の終えんが期待されます。スマートフォン世代の若い人材が、自分たちのライフスタイルに合わせて仕事に取り組めるような環境づくりを醸成するといった、積極的な取り組みも必要です。

厚生労働省の同上資料によれば、介護職の「勤務継続にあたり重要と思うもの」というアンケート調査の結果には、「仕事へのやりがい」、「能力や業務内容を反映した給与体系」、「上司や同僚を含めた職場全体の雰囲気の良さ」、「休暇取得のしやすさ」、「両立支援、多様な働き方などワークライフバランスに配慮した勤務体制」がベスト5として挙げられています。これらの項目を事業所としていかに改善していけるかが、今後のスタッフの定着率向上=優秀な人材の確保の重要なカギを握っているといえるでしょう。


参考:

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