ICT活用
介護現場のICT化がもたらす高齢者への影響
新型コロナウイルスの影響もあり、対人サービスである介護サービスへのICT導入は急務となっています。しかし、導入費用がかかることもあり、ICT導入に踏みきれない事業所は少なくありません。実は、ICT導入は介護事業所だけでなく利用者である高齢者にもさまざまな効果があることをご存じでしょうか。ICT導入と高齢者との関係性について、3つの視点から考えていきましょう。
超高齢社会における高齢者とICTの関係性
超高齢社会に突入した日本では、介護を必要とする高齢者の人口が増え続けています。2020年2月現在の要介護認定者数は約667万人であり、ほぼ半数が軽度(要支援と要介護1)の介護を必要とする認定者です。軽度者の多くは自宅で生活していることから、国は2005年から「地域包括ケアシステム」の構築を始めました。2011年に全国の自治体にシステムの構築を義務化し、2015年からは在宅医療と介護の連携・推進などを進めています。
しかし、介護現場をめぐる問題は深刻化しています。介護需要が増え続けているのに対し、必要な介護人材が今もなお不足しているのです。特に、在宅介護を支える訪問介護員の人材不足は深刻で、介護事業所の50%以上が人手不足感を強く感じているのが現状です。また、地域包括ケアシステムでは多くの職種がかかわっているため、専門職間の情報共有も大きな課題となります。
そこで国は、介護現場の業務改善を図り、生産性を向上することを目的として、介護現場のICT導入支援を始めました。具体的には、「介護事業所に対するICT支援事業」、東京都では「介護保険施設等におけるICT導入支援」が2019年度から開始されました。
高齢者をとりまく介護現場におけるICTの必要性
介護現場のICT化はまだ始まったばかりで、ICT化が本当に必要なのか疑問に思う人もいるのではないでしょうか。ここでは、介護現場をICT化すべき3つの理由について解説します。
職員の業務負担が軽減され、人材定着が促進できるため
介護現場をICT化すると、職員の業務改善が期待できます。例えば、介護記録がICT化されると、介護記録を簡単に時系列で整理できます。必要な情報を探す際にも、文字が読みやすく、検索も楽に行えるでしょう。すでに訪問系サービスでは、出先での記録作成が可能になったため残業時間の削減につながった事例があります。
介護サービスの質を向上するため
ICT化により介護業務が効率化されると、利用者と直接かかわる介護業務の時間が増え、丁寧なケアを行えるようになります。利用者や家族とコミュニケーションをとる時間が増えれば、信頼関係も築きやすくなり、利用者や家族の満足度向上が期待できます。また、介護サービスの質が向上することで、集客につながる可能性もあるでしょう。
加速化するICT化に対応するため
介護現場のICT化はまだ始まったばかりですが、医療現場では電子カルテを代表とするICT化が進んでいます。地域包括ケアシステムではICT化が必須となってきており、今後、介護を含めた福祉業界でICT化が加速することは容易に想像できます。今からICTを導入しておけば、今後急速にICT化が進んでも落ちついて対応できるでしょう。
ICT導入がもたらす高齢者と専門職との関係性の変化
介護現場にICTが導入され業務が効率化されると、関係職種との情報共有がスムーズになります。例えば、利用者である高齢者の体調に変化があった場合、これまでは訪問介護からケアマネジャーが連絡を受けて関係機関に相談するという流れでした。ICT導入後は、システム上でやりとりができれば、関係機関に一度で情報発信が可能となります。
また、情報の伝達ミスが減らせることも大きな効果のひとつです。多職種間での連携は、これまで電話でのやりとりが多く、聞き間違いによる伝達ミスがよく発生していました。しかし、システム上で文字を介したやりとりならば、情報を確実に伝えられます。さらに、後から確認もできるため、メモをなくして再度問い合わせをするという手間も減らせるでしょう。
一度に情報を共有できることや伝達ミスが減らせることは、利用者である高齢者に「この人に伝えれば確実に対応してもらえる」という安心感を与えることにつながります。その結果、信頼関係を築く期間もICT化前より早まると考えられるでしょう。高齢者と専門職の関係性が密になれば、小さな変化にも対応でき、よりよい介護サービスを提供できるのです。
高齢者と事業所双方にメリットのあるICT導入を今こそ進めよう
高齢者や介護をとりまく環境は今、めまぐるしく変化しています。介護業界が変革している今、ICTを導入することは、事業者だけでなく高齢者にも大きな効果を与えられます。変わりゆく時代だからこそ、高齢者と事業所の双方にメリットのあるICT導入を検討してはいかがでしょうか。
参考: