ICT活用
今から介護記録の電子化は進めるべき?
医療分野では着々と進んでいる記録の電子化が、介護分野でも始まっています。介護記録を電子化すると、業務の効率化が図れる、人材不足による業務負担を軽減できるとの見解もあり、電子化がますます進むことが予想されています。しかし、電子化にかかる費用や手間などに不安を感じている事業所も多いのではないでしょうか。そこで、介護記録の電子化における疑問について詳しく解説します。
なぜ介護記録の電子化が進められているの?
介護業界で長年の課題となっているのは、人材の慢性的な不足です。厚生労働省の調査によると、2020年度末までに必要な介護人材である約216万人に対し、現状では約26万人も足りないことがわかっています。これまで国はさまざまな施策を行ってきたものの、介護人材を必要数確保することはできませんでした。しかし、今後も介護需要は増え続けることは確実です。介護サービスに対する要求は多様化しており、少ない人材でも介護サービスの質は維持、もしくは向上しなくてはなりません。
そこで、国は2019年3月に「介護現場革新会議(第3回)」を開催し、介護業界を挙げて取り組むべき課題のひとつとして、介護記録の電子化を含めた介護業務の改善を行うことを提示しました。これまで介護記録は手書きもしくは紙媒体が主流でした。しかし、紙媒体では記録を取り出すまでに時間がかかります。手書きの記録では、文字や文章が読みにくいといったデメリットもあるでしょう。
介護記録を電子化すれば、必要な情報を簡単に取り出すことができるようになります。事務的業務を短縮して生まれた時間に介護サービスを提供すれば、介護サービスの質の維持、向上につながるでしょう。つまり、介護記録の電子化が進むことは、急増する介護需要や多様な介護サービスへの要求に対応できるようになると考えられているのです。
介護記録を電子化した場合に受けられる支援はある?
介護記録を電子化するには大きな費用が必要です。そこで利用したいのが「ICT導入支援事業」です。介護事業所の業務改善支援策として2019年に始まった制度で、介護事業所がICT機器を導入する際に、費用の一部について助成を受けられます。
次の要件を満たしていれば助成の対象になります。
- 介護記録と情報共有、請求業務を一気通貫で行える介護ソフトであること
- 居宅介護支援事業所と訪問介護支援事業所のサービス提供事業所間における情報連携の標準仕様に準じたものであること
- タブレット端末の場合は介護業務のみに使用し十分なセキュリティ対策を講じられること
- 日中のサポート体制が常設されており一般に販売もしくはリースされている介護ソフトであること
- 導入予定の介護ソフトがCHASE(介護データベース)対応であること
助成割合は各都道府県などが開催する介護現場革新会議により決定されています。また、助成金額の上限は事業所規模によって下記のように決められています。
- 従業員1~10名 50万円
- 従業員11~20名 80万円
- 従業員21~30名 100万円
- 従業員31名以上 130万円
介護記録を電子化するメリット・デメリットとは?
介護記録を電子化する場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
介護記録を電子化するメリット
介護記録が電子化された場合、得られるメリットは次の3つです。
- 業務の効率化が図れる
訪問サービスでは、事業所に戻り記録しなければなりませんでしたが、電子化によって訪問先から記録が可能となります。通所系、入所系施設の場合も、利用者の様子をその場で記録することが可能となり、業務の効率化が図れます。
- 介護サービスにかける時間を増やすことができる
業務が効率化されたことで生み出された時間を使い、介護サービスに直接かかわる時間を増やすことができます。介護サービスに集中できるため利用者や家族の満足度も上がり、介護の質の向上につながるでしょう。
- 情報共有がスムーズになる
介護記録と情報共有、請求業務が一気通貫するソフトを使えば、介護記録の内容がほかの書類にも反映されるため、転記の必要がありません。また、必要な情報を簡単に取り出すことができるため、情報共有がスムーズになります。
介護記録を電子化するデメリット
介護記録を電子化する場合の大きなデメリットは、初期投資費用がかかることです。しかし、国も電子化を推進しており、補助金制度を利用して費用を抑えることは可能です。また、介護ソフトの種類も増えているため、予算に合わせたソフトウェアを選択できます。
一方、職員が電子化に慣れるまでに時間がかかることもデメリットといえるでしょう。これまでの記録形式から大きく変わるため、パソコンや電子機器が苦手な職員は苦労するかもしれません。記録方法をマニュアル化し、わかりやすく説明すれば、習得するまでの時間を短縮させられるでしょう。
長期的視点に立ち介護記録の電子化を進めよう
介護記録の電子化は、導入時に手間がかかる部分もあります。しかし、長期的には業務が効率化されるため、導入のメリットのほうが大きいといえるでしょう。電子化に必要なソフトウェアの種類も増えており、内容や値段を事業所の規模に合わせて選ぶことができます。条件が合えば国の支援策も受けられることも可能です。長期的な視点に立ち、介護記録の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
参考: