介護ニュース
介護のビッグデータの現状と今後の展開
現在、行政のみがその情報を使用している介護のビッグデータ。自立支援や重度化予防の推進、科学的介護の展開などに向け、厚生労働省は介護のビッグデータを第三者へ提供するための取り組みを開始しました。ここでは、介護のビッグデータの現状と、今後の取り組みついて、詳しく見ていきます。
介護のビッグデータ「介護DB」の現状とこれから
介護領域のビッグデータとしてよく知られているのが、厚生労働省による介護保険総合データベース「介護DB」です。介護DBには、介護認定情報と介護保険レセプト情報の2つがあります。要介護認定情報は2009年4月から情報収集が始まり2018年2月末時点で約5000万件以上、介護保険レセプト情報については2012年4月から2017年11月末までの約8.6億件もの情報が介護DBに蓄積されています。
介護DBのデータは、NDBと呼ばれる医療保険のビッグデータとは別に集められています。また、介護DBの管理や分析も個別で行われており、健康と医療、介護のビッグデータの連携はこれまで行われていませんでした。また、介護DBの利用も市町村や都道府県の介護保険事業計画の作成や実施、評価に限られていました。
ところが、団塊の世代がこれから75歳を迎えるにあたって、効果的で効率的な医療や介護の提供体制を整えるために、地域包括ケアシステムの構築が急務となってきました。そこで国は、2018年度から有識者会議の審査を経たうえで、介護DBについて第三者への情報提供を開始しました。
情報提供の対象となるのは、これまでも対象だった国や自治体に加え、研究開発独立行政法人や大学、国民健康保険団体連合会の中央団体、介護サービスの質の向上を設立目的とする公益法人などです。これにより、サービスの利用分析や提供体制分析だけでなく、保健や医療、福祉分野の学術的な分析など、幅広い分野で活用してもらうことが可能となりました。
医療ビッグデータとの連結解析により国民の健康へ寄与
前述したように、介護DBと医療保険データであるNDBはこれまで別々に情報収集や管理、分析が行われてきました。そのため、病院での治療や処置の内容がどのように要介護度に影響するかということについては、分析することが難しい状態でした。しかし、医療費や介護費用は年々増え続けており、団塊世代の後期高齢化はすぐそこまで迫ってきています。
国はまず、介護DBとNDBとの連結解析を可能にするため、有識者による会議を開催し合意を得ました。今後は法的整備を行い、実際の運用につなげていく方針となっています。
将来的には、NDBや介護DB以外の公的な保健医療データベースとも連結できるよう整備を進めていき、医療と介護の垣根を超えた新たな解析が行われることが期待されています。
国の新たなデータベース「CHASE」の運用
国はこれらのビッグデータを使用して、より効果的な支援を行い、介護サービスの質の向上や増え続ける介護給付費の抑制につなげる「科学的介護」の確立を目指しています。
介護領域のビッグデータには、これまで紹介してきた介護DBのほかに、リハビリテーションマネジメントの情報を蓄積している「VISIT」があります。VISITには、通所・訪問リハビリテーションの質の評価データが収集されています。ところが、現状では介護DBとVISITだけではカバーできていない領域があります。
そこで、国は介護領域の新たなデータベース「CHASE」を構築するための取り組みを開始しました。CHASEには、以下の4つの項目に当てはまる情報を収集して蓄積します。
- 「研究の重要性」及び「データ利用の可能性」から評価して、一定の基準を超えている項目
- ケアマネジャーなどによるアセスメントデータにおいて比較的シェアが高い方式による項目
- 介護報酬の加算等の算定において求められる様式のうち分析しやすい項目
- リハビリテーション以外のサービス提供内容について、訪問介護事業所における電子記録等から収集可能な項目
具体的には、身長や体重、食事や水分摂取量といった栄養マネジメントに関する情報や、口腔機能向上に関する情報、認知症や日常生活動作に関する情報など、介護DBやVISITでは収集されていないものを補完的に収集します。そして、2018年度中にはCHASEのプロトタイプを動かし始める予定となっています。
初期仕様案は随時バージョンアップを行い、新たに必要と思われる項目を追加したり、必要性が低い項目の削除を行ったりして項目を整理しながら、科学的裏付けに基づく介護の推進に向けて、その都度検討会を開催していきます。最終的には2020年度の本格的な運用を目指していますが、本格運用の後も、必要に応じてアップグレードがされていく予定となっています。
医療データとの連結で科学的に裏付けられた介護の実現を目指す
介護は、医療に比べるとエビデンスに基づいていないといわれてきました。これまで蓄積されてきた介護のビッグデータと医療データを連結することで、今後科学的に裏付けされた介護の実現が可能となります。医療と介護が連携することにより、健康寿命の延伸に向けた取り組みも進んでいくことでしょう。
参考: