自分は何者なのか知っていますか?介護職の「自己覚知」の大切さ

介護や社会福祉の仕事でたまに耳にするワード「自己覚知」。資格取得の研修講座では勉強したものの、日常の仕事では意識していない人も多いでしょう。しかし、介護職の日常にはとても深い意味と役割を持つものなのです。今回は、この「自己覚知」にスポットライトを当て、その意味と役割、実践の方法を考えてみましょう。

自己覚知とは?

自己覚知とは、言葉通り「自分を知る」ことです。自分自身との対話によって、自分のことをよく把握することです。

ところが、自分を見つめなおし、客観的に自分を評価することは、想像以上にむずかしいことだといわれています。自己覚知は、自分自身の殻を破る作業となることもあり、勇気も必要であることは認識しておきましょう。

対人援助職における自己覚知の重要性

なぜ、介護職や福祉職には自己覚知が大切であり、必要なことなのでしょうか?

それは、介護や福祉の仕事に関わる職種は「対人援助職」だからです。利用者に向き合う際に、介護スタッフなどの援助者は、自らの個性や、性格、考え方やリアクションの傾向をしっかりと把握し、プロとして自分の感情や態度をしっかりコントロールできる状態でなければなりません。

では、自己覚知の有用性について、状況別に考えてみましょう。

  • 利用者とのコミュニケーション

自己覚知ができていれば、利用者の言動がどうしても受容できない、会話がかみ合わないなどの場合、相手は自分とは違う価値観を持っているということを冷静に認識できるでしょう。そうすれば、自分の許容範囲を広げることにより、利用者によりそった視点でていねいに対応することが可能になります。

  • 同僚スタッフとのコミュニケーション

同僚や上司の考え方、仕事の手順に納得できなかったり、逆に自分の仕事の進め方を理解してもらえないなどの不満があったりする場合、話し合いによって自分と相手の価値観の違いをきちんと認識することができるでしょう。自分の意見を主張するばかりではなく、相手の立場になって考えることができれば、相互理解につながります。

  • 日常生活におけるストレス

ストレスが溜まると、ついイライラしたり、家族や友人などにあたってしまったりしがちの人は多いでしょう。また、判断が難しいことに対して、ほかの人に決定をまかせてしまいがちの人はいませんか?

自己覚知とは、怒ったり冷静さを失っていたりする自分を、もうひとりの自分が見つめて語りかけることです。日常生活におけるさまざまな迷いや不快な感情に対して、冷静に客観視できれば、人への接し方が変わり、問題があるときには、解決の糸口が見えてくるはずです。

自己覚知の方法は?

それでは、状況を客観的に分析して、状況や対人関係を理解、受容し、自分の心の中にある気持ちを整理することができるようになるという、自己覚知の実践方法について考えてみましょう。

現在では、質問に答えて性格を診断するエゴグラムや、テーマについて複数の人間で意見を出し合い結論を出すというグループワークなど、心理学的な自己覚知開発の手法がいろいろ出ています。今日1日の仕事を振りかえり、自己覚知を意識した日記をつけることや、職場のミーティングなどにおいて、自己覚知について話し合うことなども、すぐ始められることができます。手近な方法からいろいろ試して、自分を見つめる作業をしてみましょう。

そのための二つの手法、「エゴグラム」と「ジョハリの窓」を紹介します。

自己覚知のための手段「エゴグラム」とは

エゴグラムは、自分の性格を客観的に把握するための心理検査です。アメリカの精神科医エリック・バーンによる交流分析理論にもとづき考案されました。交流分析理論は、自己と他者との交流パターン(人間関係)に注目し、主体的な生き方とWin-Winな人間関係づくりを目指す心理学です。

エゴグラム(Egogram)は、エゴ(ego:自分らしさや自我状態)をグラフなどに図表化(グラム=gram)するもので、個人の性格の特性を見える化することで客観的に理解しやすくした心理学ツールです。

エゴグラムの検査は個人でもグループでも行うことができます。まず、20〜60問程度のシンプルな質問形式のチェックリストに答え、その結果をもとに個人の性格特性を次の5つの自我状態(エゴ)に分類します。

  • 批判的な親(CP):規則や価値観を重視し、他者を評価する傾向
  • 養育的な親(NP):他者を支援し、共感を示す傾向
  • 成人(A):論理的で客観的な思考をする傾向
  • 自由な子供(FC):創造的で自発的な行動をする傾向
  • 順応した子供(AC):他者に従い、適応する傾向

エゴグラムのチェックリストにはいくつかの方式があります。例えば、各質問には「はい」、「いいえ」、「どちらでもない」といった回答を選ぶことで得点がつき、それぞれの自我状態に関連する質問への回答の得点を合計し、棒グラフなどに表します。この得点は高いからよい、低いから悪いというものではなく、パーソナリティの傾向や行動パターンをアセスメントするためのものです。自己覚知のゲームをするつもりで気楽にトライしてみましょう。

エゴグラムのチェックリストは書籍やウェブサイトで公開されているものを使うことが多いです。チェックリストだけでなく、自動で診断までできるウェブサイトもあるので利用してみましょう。厚生労働省のサイトもおすすめです。

*参考:厚生労働省「5分でできるエゴグラムセルフチェック2024」

エゴグラムの検査結果では、それぞれの自我状態の得点をもとに自分の強みや弱みが理解できるようになっています。この結果から、自分の強みと課題を確認し、強みを意識的に活かしながら、課題となる自我状態を補う行動を取り入れます。それは他者との関係性を見直し、効果的なコミュニケーションを図ることにつながります。

エゴグラムの結果を自分へのポートフォリオとしてまとめたり、日記をつけたり、瞑想を行うことで自分の内面を見つめるなど、内省をすることで、さらに自己覚知を向上させることができます。他者からの意見やアドバイスを受け入れ、自己の概念を見直すフィードバックの作業も有効です。

自己覚知のための手段「ジョハリの窓」とは

ジョハリの窓は、心理学者ジョセフ・ルフトとハリー・インガムによって提唱され、対人コミュニケーションを円滑化するために考案されました。自分についての自己による認識と他者からの認識を4つの領域に分けて可視化し、自己理解や対人関係の改善を目的とするフレームワークですが、自己分析ツールとしても有効です。4つの領域は「窓」として次のように示されます。

4つの窓
  • 開かれた窓:自分も他者もよく知っている領域
  • 隠された窓:他者は知っているが自分は知らない領域
  • 秘密の窓:自分は知っているが他者には隠している領域
  • 未知の窓:自分も他者も知らない領域

ジョハリの窓のワークショップは、グループで行うことが多いです。

グループワークでは、他者からのフィードバックを通じて自己イメージと他者からの評価のズレを可視化し、自分では気づいていなかった特性や短所を発見し、自己成長の機会を得られます。また、認識のズレを浮き彫りにすることで関係性やコミュニケーションのトラブルを解消すべき課題として認識することができます。

またジョハリの窓のワークショップは、一人でも書籍やオンラインツールを用いて実施できます。ジョハリの窓を定期的に実施することで、自己覚知や対人関係の改善に効果的です。

円滑な対人関係を築くには、自分と相手がよく理解している部分(開かれた窓)を広げていくことが重要です。ジョハリの窓を活用することで、自分の長所だけでなく弱みや悩みなども含めて自分を知ってもらうこと(自己開示)で、他者からのフィードバックを受け入れることができます。これにより、開かれた窓が広がり、自己覚知も深まるでしょう。

ジョハリの窓のワークショップは信頼関係の構築にも役立ちます。さらに自己開示を進めることで他者との信頼関係が深まり、よりよいコミュニケーションが可能になります。これも自己覚知の一環として重要です。ぜひ、試してみてください。

自己覚知とは、終わりのない自分さがしの旅

覚知の意味は、真理を知る、事情をよく理解し、見逃していたことにも気づくこと。したがって、自己覚知とは自分自身の内面に入り込んで自分を知る作業といえます。そして、自分自身の価値観や人間性が、他人に良くも悪くも大きな影響を与える可能性があることを知ることです。逆に、利用者を援助するためには、その人の価値観や人間性を先入観なく真摯に知る必要があるとことになります。自分と他人の価値観の違いや共通点を知ったうえで、幅広い視野をもちながら対人援助の仕事に関わっていくことが大切なのです。また、日常の仕事において、問題に直面して行き詰ってしまったとき、自分が思ってもいなかったトラブルが起こったときなどにも、自己覚知は解決の役に立つでしょう。

自己覚知は、エゴグラムやジョハリの窓などのワークを1回やってみれば終わりというものでもありません。生涯続く、自分探しの長い旅のようなものなのです。仕事の質を高めるためにも、自身の生活の質を高めるためにも、折に触れて、自分は何者であるのか、考えていきましょう。

参考:

関連記事

  個人情報保護方針はこちらをご確認ください