なぜ「無届け有料老人ホーム」に需要があるのか?

厚生労働省の2016年の調査結果によると、都道府県に届け出をしていない有料老人ホームは約1,200カ所以上、全国の有料老人ホームの約1割にあたるとのことです。

介護施設の健全な運営のために、介護事業者は日々努力を続けています。しかし、その一方で無届け有料老人ホームのような基準を満たしていない施設を選ばざるを得ない利用者もいるのが実情です。

無届け有料老人ホームとは?

有料老人ホームは、老人福祉法のもとで高齢者向けサービスを提供する施設と定義されており、「一般型」と「住宅型」に大きく分けられます。

近年、増加傾向にある住宅型は、職員が食事や介護ケアなどを提供し、介護保険サービスに関しては入居者が外部のケアマネージャーや事業者と契約します。細かいレギュレーションに沿った届出認可が義務付けられており、経営母体の多くは会社などの営利法人、医療法人や社会福祉法人などです。

「無届け老人ホーム」は、自治体への届け出をしていない無許可の介護施設を指します。一般企業も参入しており、高齢者の入居者を募集して独自のサービスを提供している場合が多いようです。しかし、行政と連携した介護サービスや入居者の生活の質は保証されていません。

それでは、無届け有料老人ホームはすみやかに撲滅すべきものなのでしょうか。その答えはNOと考えられます。

需要の背景には止むに止まれぬ事情が

多くの無届け有料老人ホームは、訪問介護事業所を併設するという事業スタイルをとっています。例えば、同じ建物の1階に訪問介護の事業所を、2階に老人ホームとしての居室を設けるというものです。そして、訪問介護の扱いで入居者のケアを実施しています。

北海道旭川市では、介護事業者や建設会社、警備会社などの企業が無届け有料老人ホーム経営に参入しています。そのひとつは、部屋や通路の広さは国の基準を満たしていませんが、スプリンクラーは完備。訪問介護事業として自治体から受け取る介護報酬によって経営は安定しています。月あたりの利用料は3食付きで6万8千円と格安のため、全21部屋がほぼ満室で入居者の評判もいいようです。

高齢者住宅財団が2016年11月に行った調査によると、無届け老人ホームの平均費用は、自治体に届け出ている介護施設よりも月あたり約2万円安いとされています。つまり、無届け有料老人ホームが経済的な理由を抱える高齢者の受け皿になっているのです。

病院やケアマネージャーから紹介されるケースも

前述の高齢者住宅財団の調査では、無届け有料老人ホームに入居した利用者の約7割が病院や診療所、ケアマネージャーなどから紹介を受けたと回答しています。また、行政の介護の窓口である地域包括支援センターや福祉事務所、役所などの紹介というケースもあります。無届けだとわかっていても、高齢者の経済的な事情や切羽詰った心身の状態を考えると、そのような施設を紹介せざるを得ないのが現状なのです。

さらには、特別養護老人ホームへの入居を希望しても、すぐには叶わないという問題もあります。例えば世田谷区の場合、特別養護老人ホームへの入居待機者数は2,300人にものぼります。これでは正規の老人ホームだけではカバーできません。

行政の監視、対策も「無届けゼロ」にはつながらず

無届け有料老人ホームは、所得の少ない層や待機者からの需要があり、独自のポリシーや経営ノウハウ、ユニークな発想で運営しているところがあります。しかし、なかには劣悪な環境で質の低いサービスを提供している施設もあり、批判の声は少なくありません。

高齢者住宅財団の理事長は、医療機関やケアマネージャーが無届け有料老人ホームを紹介するのは望ましくない、と指摘しています。きちんと自治体に届け出て運営している介護施設にとっては、顧客を奪われる可能性があるため、不公平に感じることもあるでしょう。

国や自治体は届け出を促す対策をとっているものの、思うような効果は出ていません。施設への入居希望の集中を解消するために、長期展望として自宅での居宅介護を推奨する施策は打ち出していますが、まだまだ無届け有料老人ホームには「必要悪」、「駆け込み寺」としての需要が残りそうです。

 

参考:

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