インタビュー
介護現場の人材不足が深刻?現場のIT化で効率化と人材確保を同時に実現
高齢化社会の到来で重大な問題となるのが労働者不足です。政府が働き方改革を指導する背景でもありますが、高齢化で要介護者が増える介護業界では、この問題はよりいっそう深刻です。「人を集めること」も大切ですが、離職率が高い介護の現場では「人を辞めさせないこと」が第一です。そのためには、現在の介護の現場における課題解決を図り、介護スタッフの業務への不満を少しでも改善することが大切です。また、ナレッジの共有やスキルレス(熟練不要)化を図り、若い人でも即戦力として活躍できる環境作りをすることも重要です。定着率の高い職場には良い人材も集まるので、人員確保にはずみがつくでしょう。
そこで、介護現場の課題改善方法を、アイホンの独自調査結果にもとづくITを使った業務効率化ソリューションで考えてみましょう。
労働者人口の減少による介護スタッフ不足には、パラダイムシフトで対応
「国立社会保障・人口問題研究所」の平成29年推計によると、20代から50代、そして60代も含めた労働が可能な年代の人口構成比は、2016年で63.6%、それが2026年には6割を切り、59.9%になります。一方、70代以上で見た場合、その人口構成比は2016年の19.2%から2026年には24.4%まで上昇します。
要介護者の増加は施設の増設で対応するようになると考えられますが、問題はそこで働く介護スタッフの確保です。母数となる労働人口が減少するので、介護スタッフの不足がより深刻な問題になるのは間違いありません。
必要なパラダイムシフト
これまで日本の企業は、とにかく優秀な人材を採用し、高い水準でのスキルの均一化を求めてきました。しかし今後は、優秀な人材、仕事に最適な人材だけを求めても、労働人口が減少してくると、新規採用が難しくなるでしょう。そこで、パラダイムシフト、物の見方や捉え方の変革が求められるのです。
- 「優秀な人材を集める」から「離職率を下げ、現在の人材の力を“活かす・育てる・効率化する ”」へ
介護の現場の新人スタッフでも、短期で必要なスキルが獲得できれば実働面で貢献するだけでなく、モチベーションの向上も期待できるでしょう。そして、介護スタッフ1人当たりの無駄な仕事を減らせられれば、効率化と負担低減が実現できます。それらの環境作りが、結果として離職率の低下につながり、頻繁な新規募集に頼ることがない体制を築けることになります。
介護スタッフへのアンケート調査結果から考察した問題点を確認
アイホンでは現場の介護スタッフたちの働き方、その情報共有やコミュニケーションの方法について調査しています。政府の研究機関の調査結果も含め、課題を見つけてみましょう。
介護スタッフに負担な間接業務
独立行政法人経済産業研究所の介護現場の業務分析による提言には、少し驚くような事実がありました。特別養護老人ホームにおける介護の記録をつける作業や、スタッフ間での打ち合わせなどの時間は、1日の労働に占める割合が、日勤で12.6%、夜勤でも13.5%となり、これらの間接業務が負担になっているとのことでした。訪問介護ならば移動時間が業務の約3割に当たるので、そこに事務処理といった間接業務が1割加われば、正味の介護時間は6割くらいになってしまいます。同研究所では、「間接業務の負担をいかに小さくするかを考える必要がある」としています。
アイホン独自調査結果から見た介護業務の課題と解決策
2016年にアイホンが全国の介護施設で働く18歳以上の男女300人を対象に実施した『介護施設で働いているスタッフの実態・意識調査』によると、記録業務のなかで煩わしいと感じるものは「生活記録/経過記録」が51.7%、次いで「日誌」(49.3%)、「各種報告書」(46.0%)となり、おおむね2人に1人が記録業務を煩わしいと答えています。「必要な業務だから仕方がない」ともできますが、介護のコア業務ではないだけに、なんらかの改善をしたほうが、時間の有効活用やストレス低減につながるのではないでしょうか。
さいわい、今はスマートフォンやタブレット、小型のモバイルPCが普及し、執務スペースが取れない屋外でも文書作成といったデスクワークができます。フィールドワーカーや建物内を常に移動しなければならない職種では、これらのツールの活用が業務改善の鍵となっています。
介護施設におけるIT化の現状
では、実際の介護現場におけるコミュニケーションの方法とそのツールには何が使われているのでしょうか。
アイホンの調査結果では、業務上の連絡ツールは「メモ」が41.3%、「固定の内線電話」が40.7%、「ホワイトボード」が35.7%で、その後に「ノート」(32.0%)、「携帯電話」(32.0%)と続いています。「スマホ」こそ30.3%の利用率ですが、「タブレット」になると7%にまで下がってしまいます。ほとんどが紙や手書きによる連絡となり、緊急時には携帯電話、引き継ぎはノートやホワイトボードという使い分けをしているということです。そして入所者からの知らせはナースコールとなります。
施設の経営層や介護スタッフの立場から見れば、まったく当たり前の運用方法に見えるでしょう。しかし、これこそがパラダイムシフトの対象なのです。
緊急時の携帯電話の使用は仕方なくとも、紛失したり混同が起きたりしやすいメモや、誰かに消されたり誤って書き換えられたりする危険のあるホワイトボードに、重要なコミュニケーションを頼っているという事実を改めて認識してみてください。また、メモやホワイトボードでは過去の情報を振り返って伝達内容を確認するようなことも不可能です。
これらの施設内、介護スタッフ間の情報の伝達をデジタル化するだけで、伝達速度や確実性が高められます。しかも、これはIT化による業務向上効果のほんの一例にすぎません。
介護業務におけるIT化の本当のメリット
それでは、情報伝達の速度と確実性の向上のほか、IT化にはどのような効果があるのでしょうか。
施設内のすべての動きを可視化
入所者へのケアの記録がデジタルデータで残ることで、いつ、誰が、どのようなケアをしたかが数値で把握できます。その結果、入所者の食事量の変化や注意すべき行動、状態の兆しがつかめます。そのうえ、介護スタッフの活動状況も追えるので、ケアの実施が一定のスタッフに偏ることの是正や、データにもとづいた適切な指導が行えます。まさに介護現場の「見える化」になり、記憶や申告、経験に頼っていたケアやその指導、施設経営の判断が、データにもとづいたものに替わるわけです。
データ分析による業務の最適化、理想像の追求
さらに、時系列データを分析することで、業務体制の最適化、入所者に適したケアプランにまで分析対象を広げられます。最初はスタッフ間の連絡をタブレットPCに替えることからのスタートであっても、情報の伝達や業務の効率化の後は、徐々にデータ分析といった次のステップに移行していくことができます。それらをPDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)サイクルで繰り返すことで、介護業務もITシステムも理想のかたちに仕上がっていくことになるでしょう。
介護施設のIT化は人材確保の基本条件にも
最後に、メモ書きからタブレットPCまで、介護の現場での情報伝達ツールについての満足度をたずねた結果を、アイホンの調査結果から見てみましょう。
満足度の向上に期待
メモやノートなど紙に手書きするツールの満足度はおおむね5割ですが、スマートフォンや携帯電話は7割程度とやや高く、タブレットパソコンの利用者は21人ではあるものの7割の人が満足と答えています。モバイルツールの活用で情報伝達や記録の速度と確実性を高められるだけでなく、間接業務への満足度向上の可能性も見て取れます。
そして、データの集計結果にもとづいた業務の指導は、スタッフ本人の気づきを増やし、スキル向上の機会を与えます。これは、評価の公平性の点からも望ましいといえるでしょう。
IT化を定着率向上のツールに
現在、そして近い将来の大きな課題である介護現場の人材不足の解決には、IT化がひとつの有効な手段です。ITツールによる業務の効率化、安定化は労務環境の改善にもつながり、スタッフの職場環境への満足度の向上が期待できます。さらにIT化で集められたデータを入所者への適切なケアのプランニング、そしてスタッフの技術の向上に役立てられますので、「業務改善・強化」「理想的なケアプランの作成」「スタッフ育成」の3つの効果が最終的に得られます。このような職場になることで、スタッフのモチベーションアップと定着率の向上も期待できることになります。
結果として人材が集まる職場に
「良い人材を集める」から「今いる人材の能力を活かす」というパラダイムシフトによって、現在の人材を活かし、施設の定着率が向上すると、実は、新規採用においても苦労が減少すると考えられます。施設内コミュニケーションが良好で働きやすく、スキルアップの機会に恵まれ、適切な人事評価が行われる風通しのいい企業は、いつの時代、どの業種でも自然と人が集まるものだからです。「定着率の向上」は「人材の確保」にもつながるということです。
業務の効率化や従業員の満足度向上は一朝一夕で実現することが難しい課題ですが、その最初の一歩として、介護の現場のIT化が貢献できる可能性があります。IT化は業務を変更することと繋がりますが、これを機に無駄になっていた業務の棚卸にもなる可能性を持っており、一考の価値があるのではないでしょうか。
参考: