緑内障や白内障 老化による目の異変が招く転倒リスクと QOL低下

高齢になると目になんらかの症状が出てくるものですが、視覚障害や目の老化は転倒リスクが高まるほかQOL低下を引き起こすため、精神面にも問題が及ぶことも少なくありません。今回は、高齢者に多いといわれる目の病気「緑内障」と「白内障」について説明し、ユニバーサルデザインにも配慮した、視覚障害のある高齢者のサポートを考えます。

QOL低下を招く高齢者の視覚障害 原因となる病気は?

近年、視覚障害がある高齢者は増加しており、今後もこの傾向は続くことが予想されています。視覚障害は大別すると「全盲」と「弱視(ロービジョン)」があり、「弱視」は視力矯正をしても日常生活に支障をきたす程度に目が見えにくい状態をいいます。

ただし、その症状は「見える範囲がせまい」「光がまぶしく感じる」「コントラストの差がわかりにくい」や色が判別しづらい色覚異常など、人によってもさまざまです。

視覚障害があると、段差での転倒や障害物への衝突による事故やリスクの高まりに加え、視覚からの情報を得るのがむずかしくなるなど、これまでできていた日常生活が何かと制限されてしまいます。「外出の機会が減る」「新聞やテレビが見づらくなる」など楽しみがなくなってしまうため、QOLの低下から幸福度が下がってしまうこともあるのです。

高齢者の視覚障害の原因は目の病気によるものが多く、その代表的な病気とされるのが「緑内障」と「白内障」です。緑内障は高齢者の視覚障害の主な原因であり、失明のリスクが高い病気で、高齢になるほど発症リスクが上昇します。また、白内障も老化によって起こる目の病気で、80歳を過ぎるとほぼ全員が発症するとされています。

視覚障害と失明の主な原因、緑内障とは

緑内障は、眼圧(目の硬さ)が上昇することにより視神経にダメージを与え、最終的には失明の恐れがある眼疾患です。緑内障の主な原因と症状は以下の通りです。

<原因>

・眼圧の上昇

多くの緑内障は、眼球内の液体(房水)が適切に排出されず、眼圧が上昇することで発生します。眼圧の上昇は視神経にダメージを与える主な要因ですが、最近では眼圧が正常でも発症することがわかってきました。

・遺伝

家族や親戚に有病者がいる場合、発症するリスクが高まるといわれています。

・加齢

40歳以上で発症することが多く、60歳を超えると有病率が上昇します。

・他の健康状態

糖尿病、高血圧、心血管疾患、目や頭部への外傷などもリスク要因となります。

<症状>

初期段階では左右の目で補い合って見ているため視野欠損の自覚症状がほとんどないですが、さらに進行すると次のような症状があらわれることがあります。

・周辺視野の欠損

周辺視野(視野の外側)が少しずつ失われていきます。

視界がぼやけたり、かすみが強くなります。

・目の痛み

急性緑内障の場合は、強い目の痛みや頭痛・嘔吐の症状があることも。

・虹視

明るい光源の周りに虹のような輪が見えます。

・視力低下

進行すると中心視野も欠けるようになるので、視力が大幅に低下します。

緑内障は早期発見と治療が非常に重要です。定期的な眼科検診と早期の治療介入によって、視力の低下を遅らせることができます。

「日本眼科啓発会議 アイフレイル啓発公式サイト」では、6つのチェックツールでセルフチェックができるので、是非チェックしてください。

https://www.eye-frail.jp/checklist/tenken/

80歳以上のほぼ全員が発症する白内障

白内障は、眼の水晶体が濁って視力が低下する疾患です。原因と症状について以下に説明します。

<原因>

・加齢

最も一般的な原因で、加齢により水晶体のタンパク質が変質して濁ります。50歳代の約半数が、80歳代では100%が罹患するといわれています。

・遺伝

家族に白内障の既往があると、発症リスクが高まります。

・紫外線

長期間紫外線にさらされると、水晶体にダメージが蓄積します。

・外傷や他の疾患

目への外傷や糖尿病などの疾患が発症リスクを高めます。

・薬物使用

ステロイド薬など、特定の薬物も発症リスクを増加させます。

・生活習慣

ビタミンCの不足や、喫煙などが発症リスクを高めるといわれています。

<症状>

白内障はゆっくりと進行し、初期症状はわかりくいことが多いですが、次第に次のような症状があらわれます。

・視界のぼやけ・かすみ

視界がぼやけたり、かすんだりします。

・まぶしさ

明るい光や夜間の車のヘッドライトなどがまぶしく感じられます。

・色の見え方の変化

色が薄く見えたり、黄ばんで見えます。

・二重視

片目で見ても、ものが二重に見えます。

・一時的な視力の改善

一時的に近くのものがよく見えるようになります(「第二の視力」とも呼ばれる現象)

白内障は進行するにつれて日常生活へ支障をきたすため、視力が低下し始めたら早めに眼科を受診し、適切な治療を受けることが重要です。進行した場合には、外科的に濁った水晶体を取り除き、人工のレンズを挿入する手術が一般的です。

視覚障害のある高齢者へのサポートとは

視覚障害といってもその症状は人によってさまざまですが、ここでは視覚障害のある利用者をサポートする際の一般的なヒントをご紹介します。

・具体的な説明を心がける

「これ」「あれ」などの指示語を避け、「右側に~」など具体的な言葉を使い、席を外す際は一声かけるようにします。

・「見る」以外の情報・嗅覚・触覚・聴覚を活用する

手で触れて確認してもらう際には、事前に声をかけるようにします。

声のトーンは柔らかく聞こえるようにしましょう。

・クロックポジションによる説明

食事の際、「8時にご飯のお茶わん、6時にお箸があります」など、位置を時計に見立てて説明します。

汁ものや熱いものは実際に触って確認してもらいましょう。

・生活環境に視覚のユニバーサルデザインを取り入れる

掲示物やサインの文字を大きめにし、壁と建具のコントラストを強くするなど色覚の多様性に配慮された「カラーユニバーサルデザイン」を取り入れた配色にします。

また、拡大鏡や音声読み上げアプリなどの福祉用具や、視覚障害者用にデザインされた製品を積極的に利用しましょう。

ユニバーサルデザインに配慮された環境なら、転倒リスクが減り、利用者とスタッフともに安心して過ごすことができます。利用者のQOL=幸福度にもつながるので、是非採用してみてはいかがでしょうか。

目が見えにくくなってもQOLを維持する工夫を

長寿化により視覚障害のある高齢者は増加し、介護現場では視覚障害のある利用者をサポートする場面が今後いっそう増えていくことが予想されます。ノーマライゼーションを目指す上では、目が見えづらくなっても日々の暮らしの中でQOLを維持していくことが大切です。

視覚のユニバーサルデザインを意識して、介護現場では「できること」を増やしていけるよう工夫しながら、サポートしていきましょう。

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