合理的配慮の義務化 ノーマライゼーションの理念と合理的配慮の関係とは

2024年4月から、障がい者を対象にした事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。合理的配慮はノーマライゼーション実現のための手段のひとつとして、あらゆる事業者に求められます。高齢者福祉の関連事業者が行うべき、合理的配慮を考えます。

合理的配慮の義務化と背景としてのノーマライゼーション

合理的配慮とは、障がいを持つ人の人権が障がいを持たない人と同様に尊重され、学習や仕事などをはじめ公平に社会参加できるよう、個々の特性や課題に応じて提供される配慮のことです。障がいのある人にとって、ふだんの生活や社会活動の場面で提供される施設やサービスは使いづらい場合があり、結果として障がい者の活動を妨げるバリアになってしまうことがあります。こうしたバリアをなくすために、公的機関等や事業者による障がいのある人への合理的配慮の義務化が2024年4月1日から施行されました。
この背景にあるのが、現代の福祉における基本理念ともいえるノーマライゼーションの理念です。この理念の「育ての親」といわれているベンクト・ニィリエが、障がいの有無にかかわらず誰もが平等に生活していける社会の実現のために提唱しているのが8つの原理です。

1)ノーマルな1日のリズム
誰もがそれぞれの意思によって、各々の生活リズムで毎日を送ることができる

2)ノーマルな1週間のリズム
自宅や地域社会、学校、職場など、1週間をサイクルとして社会活動ができる

3)ノーマルな1年間のリズム
1年を通じ、季節の変化や長期休暇などを楽しみながら、当たり前に1年を過ごす

4)ノーマルな成長過程の尊重
興味や関心は、誰もがライフステージごとに変わるということを尊重し、同じ経験を共有できる

5)ノーマルな個人の尊重
個人の自由と希望を周囲の人が認め、尊重する社会を実現する

6)ノーマルな人間関係の尊重と結婚の保障
年齢や性別に関係なく共存し、良好な関係を築ける環境がある

7)ノーマルな経済的水準
基本的人権が尊重され、必要に応じて経済的安定の保障を得られる

8)ノーマルな生活環境
特定の施設に強制的に入所させられることなく、普通の地域の普通の家で暮らせる

ノーマライゼーションの実現にはこれらの原理すべてを達成することが必要です。

福祉関連事業者に求められる合理的配慮

障がい者からの社会的バリアの排除を求める意思表示により、障がい者と接するあらゆる場面で事業者は合理的配慮を提供することが義務化されました。つまり、障がいの有無を理由に事業者側の正当な理由なしに、施設の利用やサービスの提供を拒否してはならないということです。
バリアの排除を求められた際は、個々の特性に加え、年齢、性別、心身の状態などにもじゅうぶん気を配らなければなりません。合理的配慮は個別の介護プランなどに組み込むことも求められます。

また、事業者に求められる合理的配慮の提供の対象となるのは顧客や利用者だけではありません。例えば、福祉関連事業者では、雇用スタッフ、ボランティアも対象になり、多様な人の利用、活動を想定するべきです。その上で、提供するべき合理的配慮の内容としては次のようなものが考えられます。

<施設内の環境への配慮>
・段差をなくすなどのバリアフリー化
・点字ブロック、点字サイン付き手すり、電光表示板、音声ガイドなどの設置
・案内マークやサインを識別しやすい配色にする
・食堂やトイレなど、部屋やスペースの種類、方向を識別しやすいサインで示す
・パニックを起こした人のための休憩スペースの確保

<情報提供やコミュニケーションへの配慮>

  • 点字資料や拡大文字資料の充実、音読データの提供
  • 利用者の希望に応じた文章の代読・代筆、口頭による説明
  • 手話、筆談、ふりがな付きの文書
  • Eメール、ホームページ、FAXなどさまざまな機器による情報のやり取り

高齢者介護の現場における合理的配慮とは

さまざまな障がいを持つ人、難病を患う人も高齢になれば、高齢者施設や高齢者介護サービスを利用するようになります。また、雇用スタッフやボランティアのなかにも障がいや病気持つ人もおり、その人たちが介護現場でバリアと感じるものの排除を希望する場合は、事業者は何らかの配慮を講じる義務があります。
ここで、介護現場における合理的配慮の提供の具体例をご紹介します。

事例1:利用者のケース
精神障害のあるAさんは介護が必要になり、デイサービスを利用することになりましたが、知らない人に会ったり知らない場所に行くと緊張し負担になると家族から申し出がありました。そこで、デイサービスのスタッフがAさんの自宅で面談を重ねて関係性を築くことで、Aさんはデイサービスに通えるようになりました。

事例2:ボランティアのケース
ある特別養護老人ホームでは、ボランティアによるパソコン作業の際に読み上げソフトや点字付きキーボードを提供することで、視覚障害のある人も他のボランティアとともに活動しています。

それぞれのケースに応じて合理的かつ柔軟な対応を

高齢者施設で配慮を必要とする人に介護サービスを提供する際は、本人および家族の意向をよく確認した上で、特性や状況にあわせて可能な支援の方法を検討・相談しながら実行することが重要です。合理的配慮は事業者の本質的な事業の変更に及ばない範囲内で講じればよいとされていますが、利用者が求める配慮の提供が困難な場合、事業者は具体的な検討をした上で誠実に対応するべきでしょう。

また、上述の配慮の事例はあくまでも例示に過ぎず、個々の特性や状況にあわせた対応が望まれます。合理的な範囲内とはいえ、事業者には柔軟な考えと対応が求められているのです。

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