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認知や徘徊はNG?介護のホスピタリティを損なう、好ましくない言葉とは
ホスピタリティを考える上では言葉づかいも大切な要素です。何気なく発した言葉でも相手を不快にさせてしまっては、ホスピタリティを損ねることになってしまいます。例えば、認知症を連想させる「認知」や、その症状を指す言葉のひとつ「徘徊」などは、利用者とその家族を不快にさせることがあります。介護現場では使う言葉にも配慮して、ホスピタリティの向上につなげましょう。
ふだん何気なく使う「認知」「徘徊」、そもそもの意味は?
高齢化が進んで認知症の高齢者が増える中、「認知」や「徘徊」といった言葉が日常でもよく使われるようになりました。介護関係者であっても何気なく使ってしまうことがあるかもしれませんが、今や介護現場でこれらの言葉を使用することは不適切と考えられるようになっています。本来、「認知」という言葉が指すのは知覚や記憶、推論などの知的な活動です。しかし、介護の現場ではしばしば認知機能が悪化したという意味で「認知が進んだ」という言い方をします。ただ、「認知が進む」が指す実際の意味は認知機能が向上することであり、言葉の使い方が本来の意味と異なっています。俗語として本来と違う意味で使われていることから、こうした言葉の使い方は誤解を生む可能性があり、正しい使い方をするべきと言えるでしょう。また、「あの人、認知が進んだ」という言い方は認知症の人を揶揄したり、見下したりするように受け取れることがあります。深く考えずに言うことが多いと思いますが、もし認知症の当事者がこの言葉を聞いたら、傷ついたり不快に感じたりするのではないでしょうか? 一人でも傷つく人がいるのなら、その言葉を使うべきではありません。加えて、これまで認知症の症状のひとつとして認識されてきた言葉「徘徊」も、最近は適切な表現ではないと指摘されることがあるようです。
「徘徊」を使わないケースも増えている
そもそも徘徊とは「あてもなく歩きまわる」という意味の言葉です。しかしながら、認知症の人がそのように見える行動をしていたとしても、本人なりに目的や理由があってのことである場合が少なくないのです。認知症の人が道に迷ってしまうのは、場所や時間の感覚を失う「見当識障害」が原因であり、多くの場合は何らかの理由があって歩き、行き先を探していると考えられています。したがって、「徘徊」という言葉で認知症に起因する行動を表現するのは、本人の視点や尊厳を欠いた言い方であるということになります。このため、認知症の人や家族の尊厳を大切にすることを踏まえ、言い換えの必要性が認識されるようになりました。最近は介護関係者や認知症の関連団体が「徘徊」という言葉の使用を避ける動きも広がっています。認知症への偏見をなくし、患者本人に寄り添うためにも、高齢者施設や自治体、マスコミなどで「徘徊」という言葉を使わず、他の表現に言い換える取り組みが増えてきました。例えば、大府市では平成29年に法令等で定める場合を除き、行政内部で原則「徘徊」という表現を使わないことが決定され、市民や関係機関にも言い換えを呼びかけています。同市が実施している表現見直しの具体的な例としては、「徘徊」を「ひとり歩き」、「徘徊する」を「外出中に行方不明になる」などと言い換えるようにしていることが挙げられます。
利用者と信頼関係をつくるには呼び方も大事
利用者との信頼関係を育てるためには、それぞれの利用者をどう呼ぶかもポイントになります。医療介護求人サイトのジョブメドレーによる「介護職の実態調査」によると、利用者を呼ぶのに「苗字+さん」で統一している事業所が最も多いことがわかりました。次いで多いのが「下の名前+さん」で呼ぶケースです。認知症のある女性の場合、結婚後の姓と旧姓を混同してしまうことがあり、下の名前で呼ばれる方が安心できる人もいるようです。堅苦し過ぎず、馴れ馴れし過ぎないという点では「〜さん」が無難に思えますが、本人の希望する呼ばれ方・スタッフの呼び方にすると、利用者とスタッフの距離が縮まることもあります。ホスピタリティの視点からも利用者本人がどう呼ばれたいか、またスタッフをどう呼びたいかについて配慮することが大切でしょう。そうしたことからか、同調査では原則「さん付け」で、利用者の希望によっては他の呼び方をするという事業所が少なくないことがわかります。利用者に「〜という呼び名にしてほしい、スタッフを〜と呼びたい」という希望があれば、それを受け入れることで信頼関係をスムーズに構築することができます。事業所が入所型なのか通所型なのかなど、タイプや方針の範囲内で利用者、スタッフ双方が心地良いと感じる呼び方を選びましょう。
ホスピタリティの質は言葉にも表れる
介護現場でより良いホスピタリティを実現させるための基本は、利用者とスタッフの間に信頼関係を築くことです。相手を尊重し、大切に思っていることが伝わらなければ、信頼を得ることは難しいでしょう。ホスピタリティはおもてなしの精神ともいわれますが、それは言葉にも表れます。そこで、大切なのが介護の専門家としてどのような言葉を使うかです。特に認知症をとりまく言葉は時代とともに変わってきました。時代に合わせて言葉を選ぶことも必要ですが、利用者がスタッフとのコミュニケーションについてどう感じ、何を望んでいるか知ろうとすることが大切なのです。利用者一人ひとりを尊重し、言葉にも配慮することが、ホスピタリティを高めることにつながります。