ノーマライゼーションとエンパワーメントの違い 日本での取り組みとは?

ノーマライゼーションとエンパワーメントは現代の福祉の基本理念であり、誰もが平等に社会参加できる環境づくりの基盤となるものです。高齢化が進む社会では、高齢者介護においても欠かせない概念です。この2つの理念の違いを説明し、日本での取り組みについてご紹介します。

現代の社会福祉の基本理念「ノーマライゼーション」とは

ノーマライゼーションは、障害者や高齢者が他の人々と平等に生きる社会環境や福祉環境の整備を目指す理念です。1950年代にデンマークで提唱され、その後世界に広まりました。かつては欧米でも障害者を「ノーマル(正常)ではないもの」として施設に収容し、一般社会から隔離して保護する傾向にありました。こうした福祉のあり方への反省から生まれたのがノーマライゼーションの考え方です。 そのアプローチとして、障害者を一般の人々が暮らす社会から遠ざけて保護するのではなく、日常生活のスタイルやルーティーンを一般の社会にできる限り近づけることで自己の確立と社会的に価値ある役割をつくり出し、継続できるよう支援するものです。この考えは国際的にも福祉の基本理念となり、日本では1981年の国際障害者年を契機に広く認識されるようになりました。

個人の持つ能力に着目する「エンパワーメント」とは

エンパワーメントとは、社会的弱者が自身の置かれている状況を改善していくための方法そのものや、自己決定力を持てるよう支援することを意味します。 高齢者福祉におけるエンパワーメントは、高齢者が自分のニーズや希望を理解し、それにもとづいて意思決定ができるようサポートすることです。これは、高齢者が自己決定権を持ち、自分の生活を主体的にコントロールできる状態を目指すことを意味します。エンパワーメントによって高齢者は自分の人生に対してより積極的に関わろうとする姿勢を持ち、社会とのつながりを強化することが期待できます。

ノーマライゼーションとエンパワーメント わが国での取り組み

わが国でのノーマライゼーションとエンパワーメントの取り組みは、どのように行われているのでしょうか? 高齢者福祉の視点からの事例をご紹介します。

<ノーマライゼーションの取組例>

ノーマライゼーションの例として最も顕著なものが、内閣府が掲げた「ノーマライゼーション7か年戦略」です。これは1996年から7年かけた戦略で、次の7つの視点をもとに障害者の社会参加と権利の向上を促進する取り組みが行われました。

  1. 地域での共生を目指し、住まいや働く場の確保
  2. 適性や能力にあった教育や雇用の場を提供し、社会的自立を促す
  3. 道路や公共交通機関、建物などのバリアフリー化の促進
  4. QOL向上を目指し、福祉用具や情報機器の開発普及等を推進
  5. 地域で安全に暮らすための防犯・防災ネットワークや緊急通報システム等の整備
  6. 心のバリアフリーを目指し、ボランティア活動等による交流やさまざまな情報発信を促進
  7. 国内での経験・ノウハウを他国と共有し、国際的な協力・交流を推進 

この「7か年戦略」以降、ノーマライゼーションの理念は浸透し、高齢者介護のあり方も変わってきました。それまでの施設介護といえば大規模な施設の大部屋で集団生活をするといった形式が一般的だったのに対し、現代では高齢者の日常生活に焦点を当て、少人数制や個室を備えた施設が増加。これにより、高齢者は施設に入所しても自宅に近い環境で自分らしい暮らしを続けることができるようになりました。また、住み慣れた自宅で必要な介護を受けながら自立して暮らすといった生活スタイルも広がっています。

<エンパワーメントの取組例>

高齢者のエンパワーメントとして、高齢者のQOL向上や健康促進、生きがいづくりを支援する多様な事業が国や自治体、民間団体などによって推進されています。

例1)住民ボランティアによるフレイルチェック活動

介護状態にならないようにするには、それぞれの高齢者が自分の健康と介護予防について関心を持ち、健康の維持に自ら取り組むことが大切です。「住民ボランティアによるフレイルチェック活動」は、東京大学高齢社会総合研究機構と千葉県柏市が共同で開発した、地域社会で住民が主体的にフレイルのリスクを確認し、その予防のための具体的な行動を促すプログラムです。2023年2月時点で、全国96の自治体で実施されています。このプログラムでは、ボランティア養成研修を受けた地域の高齢者が「フレイルサポーター」として活動を進めます。活動そのものが地域の介護予防普及啓発活動になり、サポーターの高齢者にとっては自身の健康や介護予防への意識が向上し、社会参加の機会にもなっています。 

例2)介護施設におけるエンパワーメント

介護施設でもエンパワーメントの取り組みが行われています。介護を受ける人といった受け身の立場として入所者をとらえるのではなく、入所者による自主的なサークルやセルフヘルプなどの活動をサポートする施設が近年増加しています。例えば、音楽やスポーツなどのサークルを自主運営したり、要介護度の低い入所者が他の入所者の通院や買い物の付き添いをしたり、施設内で自主的な防災組織を運営したりといったケースがあります。こうした取り組みには施設側の理解や環境整備も必要ですが、高齢者自らがQOL向上や支えあいに取り組むことで、自分の人生を積極的に生きることにつながるでしょう。

ノーマライゼーションとエンパワーメントの違いと共通点

ノーマライゼーションとエンパワーメントは、異なる概念ながら共通点もあります。

ノーマライゼーションは主に社会的な統合を促す一方で、エンパワーメントは一人ひとりの力を引き出し、自己決定権を高めることに着目しています。いずれも高齢者や障害者の自己決定権や社会参加についての基本理念です。

高齢者介護で焦点となるのが利用者のADLとQOLの維持向上ですが、それはその人らしい生活の実現と、その人の持つ力を引き出し自己実現させるのをサポートすることでもあります。

そこには、ノーマライゼーションとエンパワーメントの考え方が深く関わっているといえるでしょう。

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