認知症のBPSDのケアに取り入れたい ユマニチュードの手法とは

認知症のBPSD(周辺症状)はときに介護拒否となってあらわれることもあり、その対応は介護スタッフにとって大きな負担です。BPSDへの理解を深め、本人の気持ちに寄り添うことで症状が改善することもあります。ケア対象者の人間らしさを尊重するユマニチュードの手法を取り入れたケアで、介護の負担を減らしましょう。  

認知症のBPSDとは? 中核症状との違い

認知症は脳細胞の壊死や働きが悪くなることで起こります。認知症の症状にはさまざまなものがありますが、大きくは中核症状と周辺症状(BPSD)の二つに分けられます。ここで、これらの症状の違いと具体的にどのようなものかを確認しておきましょう。 

●中核症状:認知機能の低下による症状。

・記憶障害・見当識障害:季節や年月日、時間、場所、周囲の状況などが把握できない

・実行機能障害:ものごとや作業の順序がわからない

・失語:言葉が出てこない、文字や言葉が理解できない

・失認:人の顔や目の前にあるものが何か認識できない

・失行:運動機能に問題がないのに日常的な動作ができなくなる

 ●周辺症状(BPSD):行動・心理症状とも呼ばれます。中核症状がもとで本人が混乱や不安に陥ることであらわれる、中核症状以外のすべての症状が含まれます。

・症状の例:不安、焦燥感、パニック、無気力、錯覚・幻覚・妄想、暴言・暴力、異食、睡眠障害、道に迷う、入浴の拒否、排泄の失敗、不潔行為など 

中核症状は脳細胞へのダメージによる直接的な症状ですが、これに対しBPSDは中核症状による影響と本人の性格、周囲の環境・人間関係などが作用しあってあらわれる精神的な症状や行動の変化のことをいいます。BPSDの症状は介護拒否という形になることもあるため、介護者の負担が大きくなってしまいます。

BPSDはなぜ起きる? 症状の出ない人もいる

認知症になったら、必ずBPSDが起きるとは限りません。BPSDのあらわれ方は個人差が大きく、症状の出ない人もいます。BPSDは、本人の周囲の環境や人間関係が深くかかわって起きると考えられます。周囲の環境が本人にとって好ましくない場合、ストレスが増大し暴言・暴力、妄想などに結びつくことがあるので、介護者にとっては問題行動に映り介護の負担も大きくなります。 

一方、症状の背景を探り、本人の気持ちを考えて対応することで、情緒面の不安定さやそれによる行動異常を改善することが可能です。例えば、認知症の人が財布をどこに置いたかわからなくなり「◯◯(家族など)に盗まれた」などと言い出したとします。これは「もの盗られ妄想」と呼ばれるものですが、こうしたことがある度に周囲の人が頭ごなしに否定するような対応を続けていると、妄想がより強くなり、暴力や介護拒否などの症状にもつながる可能性があります。

周囲としては当惑しますが、本人としては大事な財布がなくなり不安に思っているので、その気持ちに寄り添い本人の話を聞き「家族も心配してくれている」ことが伝われば、症状が落ち着くこともあります。  

BPSDへの対応にユマニチュードの手法が有効な理由

BPSDは感情面や行動の変化という形であらわれるので、周囲の人からすると問題ある行動や理解しがたいものに映ります。しかし、環境を変えたり人間関係を見直すなど、周囲の対応によって改善が望めます。周囲からは理解しがたい行動でも、本人にとっては理由があるため、本人の気持ちになって考えることが大切です。 

その意味では、ケア対象者を人間として尊重することを中心としたユマニチュードを取り入れた対応が有効と考えられます。ユマニチュードを習得したスタッフがケアすることで、行動異常や介護拒否が減ったという事例も報告されています。ユマニチュードの考え方では、介護対象である高齢者の「人間らしさ」を常に尊重しケアを提供します。「見る」「話す」「触れる」「立つ」という人間としての基本的な動作を「4つの柱」として、これらの動作へのサポートを通し、人が本来持っている能力を最大限引き出そうとするのがユマニチュードのケア手法の基本です。そこで、ケアする人はケアを通し、ケア対象者が「大切な存在である」ことを伝えることが大切になります。 

認知症の人が介護拒否をする原因のひとつとして、認知機能の低下のために介護の内容や介護スタッフの意図がわかりづらいことがあげられます。ユマニチュードでは、4つの柱をもとに150からなるケア技法のトレーニングを通し、認知症の人に伝わる話し方、触れ方を習得しケアを提供します。このケア技法を活用して認知症の高齢者に「あなたは大切な存在である」と伝えることで、信頼関係を育み、BPSDの緩和も期待できると考えられるのです。 

*ユマニチュードについて詳しくはこちらをご覧ください

認知症ケア手法「ユマニチュード」とは?初心者でもできる手軽さが話題に

BPSDの対応には本人の気持ちに寄り添うことが大事

BPSDは認知症の中核症状による影響と性格や環境などがあいまって起きる、心理面や行動の症状です。周囲からは問題に思える行動となってあらわれますが、その背景や理由に配慮して対応することで、本人の不安や混乱を静めて改善できる可能性があります。

BPSDのある人への対応には、本人を大切に思っていることが伝わるよう、穏やかに接することが大切です。そのためには、ケア対象者の人間らしさの尊重をベースにしたユマニチュードの手法が有効と考えられます。 

関連記事

  個人情報保護方針はこちらをご確認ください