高齢者のQOL向上のために ADLに加えて考えたいIADLやICFとの関係

長寿化にともない、医療や介護の分野では老後のQOL(生活の質)をどのように維持・向上させるかが大きなテーマとなっています。高齢者のQOLはADL(日常生活動作)と密接に関わるといわれていますが、これに加えて、QOLの維持・向上を目指す上で、IADL(手段的日常生活動作)やICF(国際生活機能分類)と呼ばれる動作や機能の指標についても理解しておくことが大切です。IADL、ICFとはどのようなものかあらためて見直し、QOL向上を図る上での注意点について説明します。

 

QOLとの関係性で考える ADLとIADLの違い

日常生活動作とも呼ばれるADL(Activities of Daily Living)とは、食事や起床、移動、排泄、着替えなどの日常生活を送る上での最低限必要な動作がどの程度できるかの指標です。

これに対し、IADL(Instrumental Activities of Daily Living)は手段的日常生活動作とも呼ばれ、買い物や食事の支度、電話応対、薬やお金の管理など、判断や思考が必要とされるADLよりも複雑な動作の指標になります。ADLが日常生活の基本的な動作であるのに対し、IADLは応用的な動作であり、自立して暮らすための能力に大きく関わります。

例えば、問題なくひとりで買い物をするには、献立に必要なものを考えて何を買うか決め、店までのルートなども確認して移動し、お金の計算もできなければなりません。これは、単に移動ができたり食事ができるといったADLの指標よりも複雑な動作で、そこに、思考や意思決定、判断などをともなうのがADLとIADLの大きな違いです。

個人のIADLがどの程度かを見定めるにはいくつかの評価方法がありますが、今回はその中でも有名なアメリカの心理学者ロートンなどによって発案された「ロートン(Lawton)の尺度」をご紹介しましょう。この評価方法では、次の8つの項目についてどのレベルで動作ができるのかを評価します。

 

・電話の使用

・買い物

・食事の支度

・家事

・洗濯

・移動(交通機関の利用)

・薬の管理

・お金の管理

 

これらの項目ごとに「問題なくできる」から「まったくできない」まで3〜5段階にレベル分けされていて、あてはまるレベルを選び「できる」は1点、「できない」は0点として採点、評価をします。

*参考:日本老年医学会「手段的日常生活動作(IADL)尺度」

 

QOL維持のためにはADLの前にIADLの低下予防を

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一般的にADLとQOLは比例して向上するといわれますが、逆にいえば、ADLが低下すればQOLも低下します。ただし、日常生活の基本的な動作であるADLが低下している状態はすでに介護が必要な状態です。いつまでもその人らしい生活を送れるようQOLの維持・向上を目指すには、できるだけ自立して暮らせる状態を維持することが大切ですし、IADLの低下はADL低下に先立って起こることがわかっています。

以上の8つの項目となる動作のほぼすべてが問題なくできていれば、自立して暮らすことができると考えられます。そのため、IADLは自立して生活できるかどうかの指標ともいえるでしょう。したがって、ADLが低下する以前に、自立して暮らすための動作であるIADLの低下をくい止めることが重要です。IADLは老化や病気による心身機能の衰えにより損なわれますが、原因はそれだけでなく、できることまで人にお世話してもらうといった環境や、世間や人との関わりが乏しくなるなどの精神面のストレスにも影響されます。

IADLの低下を防ぐには、バランスよく食べる、適度な運動といった生活習慣に加え、意識して認知機能の維持につとめることがカギとなります。では、そのために介護する立場として、どのようなことができるでしょうか? そこでまず行いたいのが、高齢者のADLやIADLを評価し、状態を知ることです。利用者がやろうと思えばできる動作、できない動作を把握できれば、本当にその人にとって提供されるべきサポートが見えてきます。つまり、本人ができることは自分でやってもらい、できないことのみをサポートすることがIADLの維持につながるのです。

 

「できること」にも着目するICFとは?

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この他にも、QOL向上に役立てられる指標にICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)があります。ICFは日本語では国際生活機能分類といい、2001年にWHO(世界保健機関)により採択されました。すべての人の生活機能を分類する世界共通の基準で、人が生活していく上で使用する機能とその背景を「生活機能」と「背景因子」に分け、さらにそれぞれを構成する要素に分類して表します。

ここでいう「生活機能」とは、はICFの主軸となるもので、次の心身機能・身体構造、活動、参加の3つの要素からなり、これらに問題がある状態を障害(Disability)としています。

 

・心身機能・身体構造:生命を維持していくために欠かせない心身の働き

・活動:日常生活および社会生活をしていくために必要なすべての動作・行動

・参加:家庭や職場、学校などの社会との関わりとそこでの役割

 

また、障害を、個人をとりまく環境に影響を与える「背景因子」との関係でとらえ、生活機能のなかに位置づけて見るのがICFの特徴です。背景因子は次の2つの要素からなります。

 

・環境因子:個人を取り巻く環境すべて。家族、友人、介護者などの人的環境と、住居、自然環境、福祉サービス、公的制度などの物的環境に分けられる

・個人因子:年齢や性別、職業からライフスタイルまで、個人としての特徴すべて

 

ICFでは生活機能と背景因子は相互に作用しあうと考え、「できないこと(マイナス面)」ばかりではなく、「できること(プラス面)」に着目しています。

例えば、ある人が足に障害があり生活する上で移動が困難な場合、車イスを使用したり、住居や生活圏内のインフラがバリアフリー化されることで、自分で行きたいところに行けるようになったというケースがあったとします。これは、生活機能上「できない」ことが背景因子に働きかけることで「できる」ようになるということです。つまり、ICFは生活する上での「できない」ことがどうすれば「できる」ようになるのか、考え工夫するために役立つ指標といえるでしょう。

このことから、ICFは個人の生活機能向上の支援に加え、社会的参加の促進にも役立てることができます。高齢者介護においては、個々の利用者の状況をICFの項目により分析することで、本人の全体像と能動的な意思や潜在的な能力などをより詳しく知ることが可能になります。

 

高齢者一人ひとりのQOLに寄り添うために

ひとくちに生活の質(QOL)といっても、求める内容は人によって異なります。したがって、高齢者のQOL維持・向上を目指すには、その人の状態や意思、嗜好などを詳細に把握し、最適な環境を整えなければなりません。また、本人が自分でできること・できないことを把握し、本当に必要なサポートを提供できるようにしたいものです。そのためには、ADLだけではなくIADLやICFの視点も活用して、利用者の人物像や背景の理解を深めましょう。

 

 

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