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ヒヤリハットを検証!介護施設のためのフレイルやコロナ感染対策とは
ヒヤリハットとは、災害防止のための「ハインリッヒの法則」で使われる言葉で、事故というほどではないが、ヒヤリとするような危険性を感じさせる事象のこと。このヒヤリハットは、介護施設でも事故を未然に防ぐための安全対策に役立てることができます。特に新型コロナウイルスという歴史的な脅威に見舞われている今、あらためて安全対策の基本とニューノーマルな対応について検証してみましょう。
■ヒヤリハットから何を学ぶ? ハインリッヒの法則とは
職場や家庭で誰でも一度ならず、「もう少しで事故になるところだった」「危うくケガをしそう(させそう)になった」というような、「ヒヤリ」「ハッ」とした経験はあるでしょう。介護施設など特に安全が重視される場では、こうした経験は「大ごとにならずに済んでよかった」とホッとするだけにとどめてはいけないといわれています。その理由は「ハインリッヒの法則」にあります。
ハインリッヒの法則とは業務を行う上で発生する災害についての経験則のことで、1件の重大事故が起きる背景には、それに類似する小さな事故が29件、ヒヤリハットするような事象が300件、発生しているとされています。これは、アメリカの保険会社で調査業務に従事していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒの統計学的な調査研究により導き出され、1931年発行の著作物の中で発表されました。以降、この「ハインリッヒの法則」は、さまざまな労働現場における基本原則として活用されています。
まさに、ヒヤリハットはリスクのタネといえるものですが、「ハインリッヒの法則」を安全対策に活かしていくには、危険(リスク)を感じさせるヒヤリハットした経験に注目することが欠かせません。ある職場で起きたヒヤリハットの事象をすべて洗い出し、その原因となるものを潰していくことが、将来の重大事故の発生防止につながると考えられます。とはいえ、労働現場での事故に自然災害が加わり、予測できない事態が起きることもあります。その場合は、ヒヤリハットを基にした事故防止策だけでは対応するのは困難ですから、可能性のあるリスクのレベルや内容などを想定し、それに合わせた対策を講じておくことも必要になるでしょう。
新型コロナウイルス感染流行が続く状況下で、介護施設では通常の安全対策に加え、感染対策も求められています。感染者数の増減や変異株の出現など、感染対策については刻一刻と変わっていく状況に合わせて対応していかなければなりません。また、感染防止のための行動制限により利用者さんがフレイルに陥るといった事態もあり得ます。ウイルス感染症の流行は自然災害とも呼べるものですが、感染防止も安全対策の一環ととらえ、考えられるリスクに対し、そのタネになるものを排除していくことが大切です。
■介護施設で起こりえるヒヤリハットの傾向と対策
介護施設で起きたヒヤリハットを将来の事故防止に役立てていくには、施設全体でヒヤリハットが起きた状況と原因の検証と対策を講じ、スタッフ全員で共有できる体制にしておくことが望まれます。
そのためには、各スタッフにヒヤリハットの事象が起きるたびに状況と原因を報告することを習慣づけましょう。報告書のヒヤリハット状況については、いつ(日時)、誰が(利用者名)、どこで(場所)を明確にすることが重要です。そして、その報告書をもとに定期的に検討会を開き、原因について分析し、どのような事故につながり得るか、どうすれば防げるかを話し合い、具体的な対策を実行します。
では、介護施設で起こりやすいヒヤリハットには、どのようなものがあるでしょうか?
実際に起こりがちな事例とその原因、事故防止につなげるための対策を紹介します。
事例1)※1
状況:入浴中に床で滑って転倒した
考えられる事故の可能性:打撲や骨折などのケガ
原因:石けんの泡が残っていたため、浴室の床が滑りやすくなっていた
対策:石けんの泡を完全に流してから移動を促す、自力歩行可能な人でも浴室内ではつねに体を支えるようにする、浴室の床に滑り止めマットを敷く
事例2)※2
状況:利用者を乗せて歩道に止めていた車いすが動いてしまった
考えられる事故の可能性:人やモノ、車への衝突事故
原因:車いすのブレーキのかけ忘れ、歩道の勾配の見落とし
対策:車いすを止めるときは、声に出して確認しながらブレーキをかける、屋外では勾配の有無に注意する
事例3)※1
状況:靴下をはこうとして椅子から落ちてしまった
考えられる事故の可能性:打撲や骨折などのケガ
原因:座った姿勢が安定していなかった
対策:前傾姿勢を取る前には、安定した姿勢で座るよう促す
事例4)※1
状況:認知症の利用者が他の人の食事を食べてしまった
考えられる事故の可能性:アレルギー反応、施設内感染、糖分・塩分などの過剰摂取
原因:スタッフの目が行き届いていなかった
対策:食事の際、認知症の人はスタッフに近い席に誘導する
事例5)※3
状況:検温を済ませていない利用者がデイサービスの送迎車に乗ってしまった
考えられる事故の可能性:施設内感染
原因:送迎スタッフによる全員の検温確認に手が回らない
対策:送迎車に乗車する前に、事前の検温を徹底してもらうようチラシなどで周知させる
こうした事例のうち、1)から4)はいつでも考えられるものですが、事例5)についてはコロナ禍特有の事例といえるでしょう。また、事例4)も感染対策が重視される現状では、特に注意したいヒヤリハットです。
ここで、忘れてはいけないのが対策すれば終わりではないことです。対策を計画(Plan)し、実行(Do)したあと、それが適切だったのか評価(Check)し、不備があれば改善(Action)していくことです。それらの頭文字をとったPDCAのサイクルで定期的に検証しましょう。
■介護施設を悩ませる フレイルとコロナ感染対策の板ばさみ
介護施設にとって、長引くコロナ感染症対策がもたらすもうひとつの悩みが「フレイル」です。フレイルとは、活動量が減ることで、筋肉量が低下し、虚弱の状態に陥ることです。高齢者の場合は2週間程度寝込んだだけでも、加齢によって低下する筋肉量の7年分が失われるとされています。
利用者がフレイルになれば、上記の事例1)や3)にある転倒の可能性が高くなることが考えられます。フレイルになると自分で体を支える力が弱くなりますから、転倒すれば深刻な事故になる危険性も増します。フレイルを防ぐためには栄養と運動が欠かせません。利用者が毎日バランスよく美味しく食事ができ、室内でも安全に体を動かせるような配慮や工夫が求められます。困難な時代を安全に乗り切るために、ヒヤリハットへの認識といつも以上の知恵が必要となります。
■ニューノーマル時代のヒヤリハットを再検証!
困難な状況が続く中、介護施設の運営に心から敬意を表するとともに、今一度ヒヤリハットなポイントを再検証することで、安全対策のお役に立てれば幸いです。特に運動も感染予防も必要な高齢者にとって、事故を防ぐための介護施設のヒヤリハットの検証とPDCAによる検証の取り組みこそが命綱だといえるでしょう。