介護報酬改定率の推移に見る介護業界の未来

3年に1回実施される介護報酬改定は、介護事業所の経営状況や介護現場が抱えるさまざまな課題を考慮したうえで、改定率が決められます。そのため、介護報酬改定率の推移を見ると、介護業界をめぐるさまざまな流れを読み解くことができるのです。介護報酬改定率の推移から読み取れる、介護業界の現状とこれからについて解説します。

これまで行われた介護報酬改定の推移

介護保険制度が2000年に始まって以降、3年ごとに介護報酬の改定が実施されています。過去の介護報酬改定を時系列的に見ていくと、介護業界がどのように変遷してきたかがわかります。

注目すべきは、介護職員の処遇改善と人材確保に向けての改定が行われた2009年と2012年です。とくに2009年の介護報酬改定率は、過去最高である3%のプラス改定でした。

一方、過去最大のマイナスとなった2003年に次ぐマイナスとなったのが2015年の介護報酬改定です。国の介護施策が施設から在宅へ転換し、要支援者を対象とした施設は総合事業へ移行、特別養護老人ホームへの入所は原則要介護3以上となるなどの、大きな動きがありました。その結果、改定率は-2.27%と大幅なマイナス改定となったのです。

直近の改定である2018年の介護報酬改定率は、地域包括ケアシステムの構築に向け、自立生活支援として訪問介護における身体介護の報酬に重点をおく一方、生活援助では担い手に専門性を求めないことから報酬減となり、改定率は0.54%と若干増でした。

介護報酬改定の全体的な流れを見ていくと、基本報酬が減額傾向にあります。改定率も下がっているため、介護事業所の平均収益率が低下、介護事業所をとりまく環境は厳しい状況となっています。事業所の経営安定化や人材確保のためには、基本報酬増が望ましい状況といえるでしょう。

総合事業から大手が撤退する動き

基本報酬が減額されている状況が続くと、事業所が利益を上げるためには加算を取る必要があります。通所介護事業所を例に、利益を上げる方法を考えてみましょう。

通所介護事業所では、総合事業の介護報酬が低いため、要支援者が多い場合は利益率が下がります。一方、認知症高齢者や中重度者を受け入れると、加算の大きい認知症加算や中重度者ケア加算を取れます。施設の規模を急に大きくすることはできないため、限られた利用者数で利益率を上げるためには、要支援者の利用数を減らし、要介護度の大きな利用者を増やすことになるでしょう。

実際に、大手通所介護事業所では総合事業から撤退する動きが見られています。2018年には、全国の約250の自治体で事業者が撤退しています。この流れは今後も続くことが予想され、要支援者に対して十分なサービスができない可能性が指摘されているのが現状です。

介護報酬改定と新型コロナで倒産や休廃業増える

介護報酬改定は、すべての介護事業所に大きな影響をおよぼします。とくに、マイナス改定となると、倒産や休廃業に追い込まれる事業所も出てくるでしょう。実際に、過去最大級のマイナス改定だった2015年の翌年には、初めて倒産件数が100件を超えました。以降、毎年100件以上の事業所が倒産している状況です。

現在は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による事業状況の悪化が大きな問題であるといえます。2020年の倒産件数は、9月末時点で94件と過去最多ペースで増えています。休廃業や解散件数も同様のペースで増加、初めて年間600件を超える見込みであり、介護事業所をめぐる状況がいかに厳しいかがうかがえます。

次回の介護報酬改定率が今後の介護業界を左右する可能性

介護報酬の改定率は、介護事業所の運営に大きくかかわってきます。前回の介護報酬改定ではわずかにプラスの改定率であったものの、新型コロナウイルス騒動によって経営が悪化している事業所も少なくありません。介護業界が安定的に成長していくためには、今後の介護報酬改定で改定率がプラスになることが望ましいでしょう。次回の介護報酬改定から目が離せません。

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