介護施設の防災対策マニュアル、最新ですか?

2020年7月に起こった「令和2年7月豪雨」では、日本各地に河川の氾濫をはじめ大きな水害がもたらされました。特に線状降水帯(せんじょうこうすいたい)による豪雨となった熊本県球磨村においては、気象庁の発表では7月3日10時から4日10時までの24時間の降雨量で約600ミリを記録。濁流が特別養護老人ホーム「千寿園」に押しよせ、多くの入所者が犠牲になりました。

地震の多発、年々深刻度を増す地球温暖化による異常気象。自然災害の多発化に対して、高齢者や認知症患者などが入居生活をする介護施設の現場では、今後どのような最新防災対策をマニュアル化しておくべきなのでしょうか。

利用者と職員の状態、動向をリアルタイムに表示化

防災対策では、刻々と変化する災害危機を冷静に分析し、どの選択肢が最適かをしっかり判断することが大切です。そのために、介護事務所内では常に最新の「人」情報を「見える化」しておき、「ひとりの落伍者も出さずに安全に避難を敢行すること」を最優先ミッションとする必要があります。

ポイントとしては以下が挙げられるでしょう。

  • 毎日、利用者(入居者)防災リストを確認、掲示する。
    要支援、要介護、歩行の可否、車いす利用の有無、基礎疾患の有無、携行すべき薬や医療器具、家族の連絡先などを一覧にしておく。
  • 職員一覧表に防水仕様を施して事務所内に掲示する。また、万一にそなえ非常持ち出しも可能な状態にしておく。
    職員一覧表を見れば、災害当日の被災時責任者、連絡網、非常勤含むすべての職員が非常時に施設へ駆けつけられる所要時間、交通手段、本部や外部の非常時協力スタッフの有無、連絡先が確認できるようにしておく。

避難関連の情報まとめ、準備作業を徹底

避難活動についても具体的かつ詳細に計画を立てておき、そのとおり行動できるかどうか日常的に確認しておくことが重要です。

  • 避難所までの経路を常にスタッフ全員が把握しておく。
    日中、夜間どちらの避難にも対応できるように、実際に全員が定期的に下見をしておく。また、避難経路は複数ルートを必ず用意する。
  • 常に最新の避難者リストを作成し、情報を更新する。
    避難所および避難先の情報、行政担当の連絡先などもリスト化しておく。
  • 常に防災避難指揮リーダーを明確にしておく。
    毎日、その日はだれが(職員)がだれを(利用者)どのように避難させるのか(移動手段、介助人数)について、担当表(ホワイトボードなど)に明確に書き込み、掲示して全員に周知する。
  • 避難先へ持ちこむ荷物(利用者の避難持参荷物)を常時準備しておく。
    必要に応じて、利用者の家族と、避難場所や引き渡し場所について情報共有しておく。また、全員避難の場合、介護施設の建物入口に避難先、連絡先、避難した人の名前や人数を掲示できるように用意しておく。
  • 避難先での感染症対策にそなえる。
    感染症対策に必要なものを準備しておく。
  • 施設自体が被害を受けるおそれがある場合には、施設の非常持ち出し品を準備しておく。
    個人情報を含むパソコン上のデータは常に更新、保存し、信頼できるクラウドサービスにバックアップしておく。

近年多発する風水害対応をチェック

地球温暖化がすすみ、年々台風の激甚化による風水害が増えています。今後、日本の風水害防災対策はより細かな対応が必要になることが想定されます。そこで、風水害に焦点をしぼった対応策を下記にまとめました。

  • 風水害の場合には、状況は分単位で刻々と変化するため、ラジオ、テレビ、行政、警察、消防などから積極的に情報入手できるようにしておく。
  • 救助要請にいたることを想定し、消防署に人数や利用所の状況を事前に連絡し、施設内で待機する場合について相談しておく。
  • 浸水防止用資材(止水板、土のう、金具、工具など)を準備しておく。出入口のドアや窓がしっかり閉鎖できることを確認し、場合によっては外部面の窓ガラスをガムテープで保護できるようにしておくとよい。
  • 風水害のアラート情報が出た場合には、水没を回避するため、施設や職員の車両を安全な場所へ移動する。また、施設の看板、鉢植え、もの干し竿など、屋外の危険なものはあらかじめ撤去しておくか、建物内に収納する。
  • 避難を準備すべき風水害が予測され、施設建物内浸水のおそれがある場合は、事業所内の什器、備品、介護用具、食料品、衣類やリネン、寝具、医薬品、衛生用品などの物資を、高所に移動する。また、入居者を最上階に移動させる準備をし

日ごろから地域ぐるみの防災コミュニケーションを

介護施設が災害に巻き込まれたときに大切なことは、早めに現在の災害状況を利用者に伝えて理解してもらうことです。災害が長引く場合には定期的に情報を伝え、利用者の心配や不安を少しでも落ち着かせる配慮をする必要があります。また、利用者は高齢のため、避難に想像以上の時間が必要であることも認識しておきましょう。

平常時に、利用者が自身で身を守れるような手段を考えておき、万が一の際に行動できるよう訓練を実施するのも有効です。

また、災害時にスムーズな協力要請ができるように、近在のボランティアや消防団などの防災組織と交流し、日ごろから相談しておくことも重要でしょう。

さらに、災害後に長期にわたり施設が利用できなくなる可能性も考えられます。近隣の社会福祉施設に受け入れ可否を確認しておくとよいでしょう。地域包括ケアシステムの視点に立ち行政を交えた防災対策のコミュニケーションを平常時からはかっておくことも、忘れずに推進しておきたいことのひとつです。

 

参考:

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