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今注目の共生型ケア施設「幼老複合施設」について知ろう
少子高齢化社会において、昨今注目されている施設が「幼老複合施設」です。1993年に始まった共生型ケアのひとつで、その数は増えてきつつあります。しかし、宅幼老所や共生型福祉施設などのコンセプトが近い施設も多く存在しており、違いがわからず迷う人も多いのではないでしょうか。今回は、幼老複合施設について、他施設との違いを交えながら解説します。
幼老複合施設とは?宅幼老所とどう違う?
幼老複合施設とは、保育園や学童保育などの子ども用の施設と、グループホームや養護老人ホームなどの高齢者施設を合築、あるいは併設した施設です。保育園とグループホーム、児童館と高齢者福祉センターなど、さまざまな組み合わせによる多様な幼老複合施設が存在しています。
似たような施設に宅幼老所があります。宅幼老所とは、小規模の日帰り高齢者施設と保育園などの子ども用の施設を融合した施設です。宅幼老所は幼老複合施設の一種と考えるのが妥当でしょう。
また、共生型福祉施設というものもあります。これは高齢者と子ども、障害者や地域の住民が一緒に利用する福祉施設です。幼老複合施設もまた、共生型福祉施設に含まれます。
このような施設は、地域のコミュニティ活動の拠点となることが多いでしょう。
幼老複合施設は子どもと高齢者だけでなく事業所にも大きなメリットがある
幼老複合施設のように、子どもと高齢者が日常的に交流する場所では、高齢者の表情が豊かになったり、子どもが積極的になったりする様子が見られます。また、人材確保の面から事業所にも大きなメリットがあるのです。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
幼老複合施設は高齢者を表情豊かにし子どもたちには学びの場になる
施設で生活する高齢者の多くは、身体機能が低下したり認知症を患ったりしたことで、意欲がわかなくなり表情も乏しくなりがちです。ところが、日常的に子どもたちと触れ合うようになってくると、初めはぶっきらぼうだった高齢者でも、子どもと少しずつ打ち解けて会話するようになります。また、子どもたちにいいところを見せようと、身だしなみを整えるようになったり、普段は杖歩行の人が杖なし歩行にチャレンジしたりすることもあります。つまり、元気いっぱいの子どもたちと交流することは、高齢者にはとても良い刺激となるのです。
子どもたちにとっても高齢者と交流することは、あいさつやマナーなどを学んだり、思いやりやいたわりの気持ちを身につけたりする機会となります。こういった点が、幼老複合施設のメリットだといえるでしょう。
幼老複合施設は潜在介護士の確保に有利に働く可能性
日本総研が2018年1月にインターネットを通じて行った調査によると、潜在介護士の現在の職業で最も多かったのが専業主婦でした。これは、結婚や育児を理由に離職した女性が多いことを意味しています。そのなかで、「介護職として働きたい」と答えた人が30代では5割以上となっています。
スタッフの子どもも保育園で預かるタイプの幼老複合施設であれば、育児を理由に働いていない潜在介護士を、自施設の人材として確保しやすいでしょう。
30年以上世代間交流を続ける幼老複合施設「江東園」
幼老複合施設への関心が高まってきたのはここ数年のことですが、東京都には30年以上も前から、高齢者と子どもの交流を続けている施設があります。それが、東京都江東区にある「社会福祉法人 江東園」です。
江東園には、養護老人ホームなど複数の高齢者施設と保育園があります。1987年に、養護老人ホームと保育園、特別養護老人ホーム、高齢者在宅サービスの4施設を合わせた幼老統合施設を建設して以降、世代間交流を積極的に続けています。
1989年には、介護士や保育士だけでなくすべての職種の人が参加している、ふれあい促進委員会を発足しました。委員会では企画や運営だけでなく、子どもと入居者双方の様子を記録に残し、ふれあいが円滑に行えるような取り組みをしています。実際に行われている世代間交流には、以下のようなものがあります。
- 毎月第4木曜日に入居者と子どもたちが終日一緒に過ごす「オープン保育」
- 子どもたちが入居者の部屋を訪ねて触れ合う「訪問活動」
- 季節の行事を一緒に楽しむ「季節行事ウィーク」
- 年に1度のお泊り会「サマーキャンプ」
季節行事などの決まったイベントだけでなく、ふだんから交流をしているのが、江東園の世代間交流最大の特徴です。お昼寝でなかなか寝付けない子どもに入居者が背中をトントンしてあげるなど、お互いが寄り添いながら生活を送っています。
幼老複合施設は今後増加する可能性も
働きたくても働けない子育て世代と介護人材の不足に悩む事業者にとって、幼老複合施設は互いの利害が一致する施設です。子どもと高齢者の双方だけでなく、事業所にも大きなメリットがあるため、幼老複合施設は、今後いっそう増えてくる可能性があります。将来が期待できる共生型ケア施設として、これからの動向はますます目が離せないでしょう。
参考: