介護施設職員の利用者虐待が増えているのはなぜか?

介護施設の職員による高齢利用者への虐待が大幅に増加しているというショッキングな調査結果が、2017年3月に厚生労働省から発表されました。全国の市町村等が虐待と判断した件数は2014年度の300件から2015年度には408件と36%の増加。相談通報件数にいたっては1,120件(2014年度)から1,640件(2015年度)と46.4%の増加となり、2006年度の約6倍にもなっています。内部通報や告発といったコンプライアンス順守の意識向上が数字の増加の一因になっているという見解もありますが、虐待はたとえ1件でも起きてはならないものです。そこで今回は、虐待はなぜ起こるのか、どうすれば減らせるのかについて考えていきましょう。

どこでどのような虐待が起きているのか

厚労省の詳細資料によると、2015年度に養介護施設従事者等による虐待があった施設の内訳は、「特別養護老人ホーム」が125件(30.6%)、「有料老人ホーム」が85件(20.9%)、「グループホーム」が65件(15.9%)「介護老人保健施設」が37件(9.1%)となっています。

また、虐待の内容(複数回答)は、「身体的虐待」が478人(61.4%)、「心理的虐待」が215人(27.6%)、「介護等の放棄」が100人(12.9%)でした。

なぜ介護スタッフは虐待をしてしまったのか

それでは、なぜ虐待は起きてしまうのでしょうか。

調査結果から浮かび上がった発生要因(複数回答)は、「教育・知識・介護技術等に関する問題」が246件(65.6%)、「職員のストレスや感情コントロールの問題」が101件(26.9%)、「虐待を行った職員の性格や資質の問題」が38件(10.1%)となっています。

また、虐待者の男女別年齢を見ると、男性(203人)は30歳未満の比率が30%、30~39歳が36.9%、40~49歳が17.2%、50歳以上が15.8%で、女性(173人)は30歳未満が13.9%、30~39歳が11%、40~49歳が20.8%、50歳以上が54.3%でした

若い層の虐待については、介護のありかた、考え方、哲学、そして技術をしっかりと理解、習得させる時間を十分にとれないまま現場に投入したために起きていることが推測されます。

女性の虐待は、年齢を重ねるとともに増えていく特徴が見られます。介護職に就いた年代が早かったため、あるいはパートなど非正規社員であるために最新の教育を受ける機会がなく、介護に対する意識が低いことが理由にあると考えられます。

また、多忙な日常からくる肉体的な疲れやストレスが原因になっているとの考え方もあり、虐待の陰には介護職の勤務体制や人手不足の問題が見え隠れしているともいえるでしょう。

施設での虐待をゼロにするために

怒鳴る、叩く、押し付ける、ののしる、しばりつける、閉じ込める、食事を与えない、無視するなどの虐待は、利用者の命に関わりかねない重大な犯罪行為です。それを防ぐためには、事業主や管理者がしっかりとしたスタッフ教育を実施しなければなりません。事例のなかには、当事者に虐待をしているという意識がないケースもあるので、虐待に関する研修を定期的に行うことは有効であると考えられます。

また、虐待を引き起こす要因のひとつと考えられる、スタッフのストレス対策も大切です。特に、施設内における上司と部下、スタッフ同士の人間関係には注意を払いましょう。パワハラやいじめなどがあると、そのストレスから虐待につながっていきます。

働きやすい事業所ではスタッフ間の信頼関係が築かれ、結果的に虐待が生まれない環境ができあがります。施設での虐待をゼロにするためには、職場の環境づくりも事業主や管理者の重要な仕事となるのです。

 

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