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バリアフリーとは? 自立支援とノーマライゼーションを支える取り組み
バリアフリーとは、障壁(バリア)を取り除くことで誰もが生活しやすい環境を整えることを意味します。介護保険法第1条には、要介護状態となった人の「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」必要なサービスに係る給付を行うという介護保険制度の理念が明記されており、バリアフリーは自立支援とノーマライゼーションの推進に欠かせない取り組みであるといえます。バリアフリーの環境が整うことで高齢者や障害のある人も自立して活動しやすくなり、誰もが自分らしく生きられる社会を目指すノーマライゼーションの前進につながります。このように相互に関連しあうバリアフリーと自立支援、ノーマライゼーションについて解説します。
バリアフリーとは?加速する街中のバリアフリー
前述のように、バリアフリーとはすべての人が社会生活を送る上でのバリアを取り除くことを指します。エレベーターのボタン位置の改善や点字ブロックの設置などは物理的バリアフリーの例ですが、社会には物理的バリアのほかにも制度的バリア、文化・情報面のバリア、意識上のバリアなど目に見えないバリアもあるといわれています。
政府広報オンライン:知っていますか?街の中のバリアフリーと「心のバリアフリー」
施設面のバリアフリーは着実に進んでいます。日本の公共交通機関では、旅客施設内の段差の解消率が2001年の28.9%から2022年には93.7%に達するなど、物理的バリアの解消に努めています。視覚障害者誘導用ブロックの設置は2021年に97.2%、障害者用トイレの設置も2022年には91.8%まで改善されています。
制度面のバリアフリーの具体例としては、2024年4月から企業や店舗などの事業者に対して、障害者に対する「合理的配慮の提供」が義務化されたことがあげられます。また、選挙の際の投票所においては点字投票や代理投票が認められているほか、コミュニケーションボードや投票支援カードを使って投票者と係員の円滑なコミュニケーションを後押しする自治体もあります。
こうした取り組みは、誰もが生活しやすい社会の実現に向けた重要なステップです。特に身体的な制約を抱える方が多い高齢者施設や介護現場においては、物理的バリアの解消をはじめ、さまざまな場面でバリアフリーに向けたさらなる努力が求められるでしょう。
介護現場におけるバリアフリーとは? 利用者の生活を支える基盤
介護現場でのバリアフリーとは、介護を必要とする人が生活しやすいよう、主に物理的なバリアを取り除くことを指します。施設内の段差をなくす、手すりを設置する、部屋の出入口や廊下のスペースを広くする、視覚・聴覚の障害に配慮した設備を整えるなど、施設内の環境整備によって利用者の安全を確保し、困難を減らして快適な生活の基盤を確立します。
また、バリアフリー環境の整備によって介護スタッフの負担も軽減されます。利用者の活動をサポートする設備が整っていると支援がしやすくなり、介護サービスの質向上にもつながるでしょう。
介護保険の基本理念、自立支援とバリアフリーの関係
前述のように、介護保険制度では「自立支援」が介護の基本的な方針として位置づけられています。自立支援の考え方では、利用者ができることを尊重しつつできない部分については必要な支援を行い、その人の能力や意欲の維持・向上を目指します。食事やトイレなど日常生活の中で自分の力でできることがある利用者なら、介護者による支援を最小限にとどめ本人の能力を発揮してもらうことで、自信や自己肯定感をもって生活できるようになるでしょう。
自立支援もバリアフリーも高齢者や障害者の生活を支え、QOL(生活の質)を向上させることを目指しており、介護現場における自立支援にはバリアフリー環境の整備が欠かせません。物理的なバリアが取り除かれ安全が確保されているからこそ、利用者は自分ができることに安心して取り組め、介護者もそれを適切に支援できるのです。例えば、トイレに手すりが設置されていれば利用者は最小限の介助で排せつできるようになり、日常生活の自立度が高まって自信を持てるようになるでしょう。バリアフリー環境が整えば、それまでできなかったことができるようになる可能性もあります。
バリアフリーは「自立を後押しするための環境づくり」であり、自立支援はバリアフリーをベースに「できることを増やし、QOLを向上させるための支援」といえます。
ノーマライゼーションとは? バリアフリーとの関係は
ノーマライゼーションは、障害の有無や年齢などに関わらず、すべての人がともに生きる社会をつくろうという考え方です。物理的なバリアだけでなく社会的・心理的なバリアもなくすことを重視しており、高齢者や障害者を含め多様な背景を持つ人々が自立し、自分らしく暮らせる環境を目指します。ノーマライゼーションが実現された社会では、介護を必要とする人も地域社会の一員として尊重され、当たり前の生活と権利が保障されるのです。
バリアフリーは、こうしたノーマライゼーションの理念を具現化するため、物理的な側面から環境を整備する手段のひとつです。
介護現場でバリアフリー環境が整備され、利用者が安全かつ快適に活動できるようになれば、ある程度自立した生活を送れるようになり、社会との接点を持ちたいという意欲も高まってくるでしょう。さらに施設内外で行われるイベントなどを通して利用者と地域の人々が交流する機会を提供できれば、社会的・心理的なバリアを取り除くきっかけになる可能性もあります。利用者には「自分も地域社会の一員なのだ」という意識が芽生え、地域の人々も介護を必要とする人を社会の一員として受け入れられるようになり、ノーマライゼーションが進んでいくことが期待できます。介護現場におけるバリアフリーは、利用者の自立を後押しすることでノーマライゼーションの推進に貢献しているといえるでしょう。
*ノーマライゼーションについてはこちらもお読みください。
ノーマライゼーションとは何か! 介護職員が知っておくべき意味と理念
バリアフリーが促す自立支援とノーマライゼーションの実現
バリアフリーは物理的なバリアを取り除くことによって介護を必要とする人の自立を支援し、ノーマライゼーションを前進させます。
介護現場では施設のバリアフリー化を通じて利用者が生活しやすい環境を整備し、自立支援の基盤としています。利用者が自分でできることが増えて自立度が高まれば、社会参加への意欲にもつながっていくでしょう。さらに利用者が地域の人々と交流できる機会があれば、互いに地域社会の一員として認めあう関係性が築かれ、社会的・心理的バリアもなくなっていきます。それは、多様性を尊重しながら共生するノーマライゼーション社会の実現に向けた足がかりとなるでしょう。