身だしなみやおしゃれでQOL向上!介護施設や訪問介護で「介護美容」が話題に

近年は、高齢になっても美容に関心を持ち続ける人が増えています。いつまでもキレイでいられれば毎日をイキイキと過ごせるようになり、QOL(生活の質)の維持・向上にもつながります。介護美容はこうした考え方に基づいて、介護施設などで暮らす人の身だしなみを整え、キレイでいることをサポートするサービスです。介護美容の目的やサービス内容、高齢者のQOLとの関連などについてお伝えします。

■介護美容とは? 介護現場で求められる理由

介護美容とは、高齢者や障害者など介護を必要とする人を対象に、健康や美しさの維持・向上を目的として提供される美容ケアのことで、単に外見を整えるだけでなく心身両面でのサポートを重視します。高齢になると肌や髪のトラブルが増える、視力や筋力が低下するといった理由で、自分でスキンケアやヘアケア、メイクをするのがむずかしくなることがあります。そのため、美容の専門的なスキルと介護の知識をあわせ持つ美容師、理容師などによる美容ケアが必要とされるのです。
また、年齢にかかわらずいつまでもキレイでいたいと願う人は少なくありません。内閣府実施の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によると、高齢者男女のうちおしゃれをしたいと思っている人の割合は、平成16年の53.4%から平成26年には69.1%まで上昇しています。高齢者のおしゃれや美容への関心が高い状態は今後も続くと予想され、それにともなって介護美容の需要もさらに拡大していくと考えられます。

■介護美容は高齢者のQOLにどう影響する?

私たちが肌や髪の手入れや化粧をするのは、手間をかけて自分をいたわり大切にすることでもあります。誰でもキレイになった自分の姿を鏡で見ると気分が上がるように、介護美容にも高齢者のQOLによい影響を与える可能性があると考えられます。具体的には、介護美容によって下記のようなQOL向上が期待できます。

・自己肯定感や自尊心が高まる
肌や髪をケアしてもらって外見が整うと、「自分は大切にされている」と感じるとともに「美しくありたい」という気持ちが満たされ、自己肯定感や自尊心が高まります。日常生活への意欲を取り戻し、他者と自信をもって関われるようになるでしょう。

・心身ともにリラックスできる
介護美容サービスで受けるマッサージやスキンケアによって心身の緊張がほぐれリラックスした状態になり、ストレスの緩和や気分のリフレッシュが望めます。

・コミュニケーションが活発になる
介護美容サービスには施術者とのコミュニケーションがともなうため、利用者が家族や介護者以外の人と関わる機会が増え、社会的なつながりが生まれます。施設内で行われる集団ケアなどの場では、利用者どうしの交流も活発になるでしょう。

・認知機能によい影響をもたらす
介護美容をきっかけに身だしなみに気を使うようになると、日々のケアへの意識が高まります。また、メイクやネイルなどの細かい作業に集中して取り組むことが手指のリハビリや脳への刺激につながり、認知機能によい影響をもたらすことが期待できます。

・身体機能の維持、体調改善が見込める
日々のヘアケアやスキンケアを自分で行えば手の運動にもなり、身体機能および日常生活動作(ADL)の維持によい影響を与えることが期待できます。またマッサージには血行促進効果があるといわれており、体調の改善につながる可能性があります。

このように、介護美容は心身両面から高齢者をケアすることで日々の生活を楽しむきっかけや活力を与え、利用者のQOL向上を目指していきます。

■介護美容のサービス内容と提供される場所

介護美容のサービスでは次のようなメニューが用意されており、利用者の健康状態やニーズに配慮しながらケアが提供されます。

・ヘアケア:介護福祉の知識を身につけた美容師、理容師が自宅や介護施設を訪問し、カット、セット、ヘアカラー、パーマなどの施術を行います。

・スキンケア:フェイシャルマッサージ、洗顔後や入浴後の保湿ケアに関するアドバイスなどを受けられます。

・メイク(メイクセラピー):メイクによって心に変化が生じることは広く知られています。メイクセラピストによる個別のメイクアップサービスを受けるだけでなく、高齢者向けのセミナーを通して利用者が自分でできるメイク法を学び、日常生活に取り入れるのもオススメです。

・アロマテラピー:アロマオイルを用いた手足のマッサージによって血行促進や心身のリラックスが期待できます。専門家のアドバイスを受けながら日常の介護に取り入れるとよいでしょう。

こうした介護美容は、自宅や介護施設、病院などへの訪問サービスとして提供される以外に地域のコミュニティセンターなどでも行われています。また、訪問理美容の利用には介護保険は適用されないものの補助制度を設けている自治体もあるので、地域包括支援センターや高齢者支援窓口に問い合わせてみてください。

<自治体の補助制度の例>

・東京都世田谷区
65歳以上で要介護3~5の方を対象に訪問理美容券を年間6枚まで交付しており、利用者の負担は1回あたり1000円です。

・千葉県柏市
65歳以上で要介護認定を受けている寝たきりの方を対象に、理髪サービスの費用の一部を助成する利用券を年間4枚まで交付しており、利用者の自己負担は1回あたり3200円です。

・埼玉県さいたま市
65歳以上で要介護3~5の方を対象に訪問理・美容券を年間4枚まで交付しており、利用者は無料で理美容サービスを受けられます。

・静岡県静岡市
65歳以上で要介護3~5の方を対象に理容・美容サービス利用券を年間2枚まで交付しており、利用者の自己負担は1回あたり500円です。

・大阪府茨木市
65歳以上で要介護3~5の方を対象に、訪問理美容にかかる出張費を1回あたり1000円まで助成する券を年間最大4枚交付します。なお、理美容サービスの費用は自己負担です。

一部の介護施設では介護美容を定期的なアクティビティやレクリエーションとして導入しており、なかには介護美容の一環として利用者自身が日常生活で実践するスキンケアやメイクを後押ししている介護施設もあるでしょう。QOL向上の観点からいえば、介護現場におけるこうした日常的なサポートもとても大切です。

■美容ケアを取り入れて利用者の毎日を豊かに

利用者のQOLの維持・向上につながる介護美容へのニーズは今後も拡大していくことが予想されます。介護現場に美容の専門家を招いたプログラムを定期的に導入できれば、利用者にとって大きな楽しみとなり、生活にハリが生まれるのではないでしょうか。
また、そこで学んだメイクや保湿ケアなどを利用者自身が実践するのが日々の美容ケアです。介護施設では専門家による特別感のあるイベントを開催するだけでなく、洗顔後、入浴後の保湿ケアや朝のメイクを後押しするなど、利用者が自分でできることを手助けしながら習慣づけていくことでQOLやADLへのよい影響が期待できます。
アクティビティやレクリエーション、日々の介護に介護美容を取り入れて利用者のQOLの維持・向上をサポートしていきましょう。

関連記事

  個人情報保護方針はこちらをご確認ください