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ナラティブアプローチと傾聴 利用者への共感を深めるための手法とは
ナラティブアプローチは臨床心理学のアプローチ法で、近年、医療や介護の分野でも応用されるようになりました。ナラティブというのは「物語」と「対話」を意味する言葉で、介護においては高齢者個人が語る人生の物語をスタッフとの対話を交えて紡ぐことで、これを多職種で共有・連携して利用者が穏やかに過ごせる環境へとつなげ、双方が納得できるサービスを提供することを目的とします。ナラティブアプローチの概念や手法、その手法に欠かせない傾聴について解説します。
いま注目されているナラティブアプローチとは
ナラティブアプローチは1980年代から提唱されている比較的新しい臨床心理学の手法です。ナラティブとは「物語と対話」のことで、何らかの課題を抱える当事者に対するサポートを、「物語」の観点から捉え直すアプローチです。従来のカウンセリングにおける考え方とは異なり、個人が語る内容を元に対話することで課題の解決を目指します。
近年、ナラティブアプローチは医療や介護の分野でも応用されるようになってきました。ナラティブには患者や利用者が歩んできた人生と、現状にいたるまでの変遷と流れに加え、「これからどうしたいか」という未来も含まれます。
医療の分野では科学的エビデンスに基づいた治療とともに、患者の物語を見つめるナラティブ・ベースト・メディスンを採用する事例が増えました。介護の分野でも科学的な手法が重視される時代になりましたが、利用者の物語に寄り添って本人が思い描く未来を一緒に創ろうとする姿勢が求められています。
医療や介護の現場でナラティブアプローチが求められる理由
介護保険によって提供される介護サービスは、利用者ができる限り自立した生活を営めるようにするため、入浴や排せつに加えて食事など、日常生活の援助を行うというものです。これは利用者本人のQOL(生活の質)向上を目指すものでもあり、単なる生活介助だけでなく社会参加も含めた生活全般にわたるサポートの在り方が問われます。
介護計画を立てる際は生き方や暮らし方について、利用者自身が「どうありたいか」に配慮し、日々の活動や社会参加に焦点を当てたサポートの仕方を考えます。その上で家族や多職種と連携し、利用者の目標を共有することが重要です。
まずは利用者本人の意向や要望を的確に把握しなければなりません。そのためには対話を通じて過去から現在までを振り返ることと、これからの未来に目を向けるナラティブアプローチが有効と考えられます。ナラティブアプローチを介護に取り入れることは、利用者の「物語」に寄り添い、現在から未来の「物語」をともに創っていくお手伝いをすることでもあります。
介護の仕事には利用者本人の介助に加え、その人が生活する環境全般を整えることも含まれます。日常生活のサポートだけでなく、その人自身の「物語」に寄り添うケアが必要とされているのです。
*介護施設におけるQOLについては、こちらの記事もご参照ください。
高齢者のQOL向上のために ADLに加えて考えたいIADLやICFとの関係
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QOL向上と業務負荷低減! 介護施設のサステナビリティを考えた設備リニューアル
ナラティブアプローチの手順と欠かせない傾聴スキル
ナラティブアプローチは一定の手順を踏まえて行います。そのステップを紹介しましょう。
1)ドミナントストーリー(本人の主観による物語)に耳を傾ける
利用者の主観的な物語をきめ細かく聞き、否定やアドバイスをせずありのまま受け入れます。この物語には思い込みや勘違いが含まれているかもしれません。こうした主観的な物語はドミナントストーリーとも呼ばれます。
2)問題を客観的に捉える(問題の外在化)
対話はフラットな立場で進めましょう。ひと通り利用者の物語を聞いたら、悩みの元となる問題を利用者自身から切り離し、客観的に捉えられるようにします。これを「問題の外在化」といいます。こういった手助けによって、利用者は問題や課題を自分の一部ではなく、外部のものとして認識します。
3)多角的な視点から質問する
視点を変えて反省的質問で問題を掘り下げます。「誰が?」「どんな出来事が?」など、他の様々な観点から問題を見直すために質問し、利用者が問題の具体的な原因を自分で考えられるようにします。
4)例外的な話を導き出す
反省的質問を通して話を深く探り、初めに聞いた物語と異なる点を見つけます。これにより、利用者はネガティブな思い込みから離れ、前向きな気づきを得ることができます。
5)オルタナティブストーリー(代替となる物語)を創る
例外的な話を掘り下げて、主観的だった当初の物語(ドミナントストーリー)に替わる新しい物語(オルタナティブストーリー)を構築します。利用者は新たな視点で自分の物語を前向きに捉えます。
このプロセスを実践するに当たって重要なのが傾聴や質問力といったコミュニケーションスキルです。利用者に「自分がこれからどうありたいか」を聞き出す必要がありますが、そのためには本人に寄り添う傾聴のスキルが欠かせません。傾聴とは単に言葉を聞くだけではなく、人の話にきちんと耳を傾けて内容を理解し、相手に共感を示すことです。否定やアドバイスをせずに話し手の想いや意図を深く理解しようとすることが重要です。まさにナラティブアプローチには欠かせないコミュニケーション手法といえるでしょう。
傾聴は良好なコミュニケーションの土台になり、人が互いの信頼関係を築く上で重要な役割を果たします。傾聴のスキルはナラティブアプローチに限らず、介護の仕事の様々な場面で人と人の関係性構築に役立ちます。
*傾聴スキルについて詳しくはこちらの記事もお読みください。
高齢者への共感を示す傾聴スキルでホスピタリティの向上を
利用者がたどった人生の物語に共感し、ともに未来の物語を創る
ナラティブアプローチは利用者の視点による対話を重視し、本人の話をありのまま受け入れることからスタートします。その上で対等な立場から話し合い、本人が課題解決のきっかけを見つけ、考え方を変えていくことを目指します。介護現場では傾聴スキルを活用し、対話を通して利用者の人生に共感しながらサポートする姿勢が大切です。