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転倒・転落を防いで介護事故を減らそう ヒヤリハット事例の活用も
介護現場で起きる事故の中で最も多いとされるのが転倒・転落です。高齢者にとって転倒・転落は深刻なリスクであることから、その防止は介護現場のリスクマネジメントをする上で重要です。介護施設で発生する転倒・転落の原因や状況の分析に加え、ヒヤリハット事例を活用して対策を考えましょう。
■介護事故で最も多い転倒・転落は深刻なリスク
介護事故とは、介護現場において利用者に実害があった、もしくは実害のある可能性があった事例のことをいいます。介護事故には様々な種類がありますが、介護労働安定センターの調査「介護サービスの利用に係る 事故の防止に関する調査研究事業」(*)によると、厚生労働省が報告を受けた入所型の介護施設における重大な介護事故(人身事故に限定)のうち、最も多かったのが転倒・転落・滑落で、およそ7割近くを占めていました。また、事故による人身被害では骨折が7割を超え、その原因はすべてが転倒・転落・滑落でした。
高齢になると筋力が落ち、骨がもろくなるため、体を支える力が弱まります。そのため、高齢者は他の世代に比べて転倒しやすいのですが、その際は骨折する可能性が高いうえに治りにくい傾向があり、それをきっかけに寝たきりになることも少なくありません。そうなると、ADL(Activity Of Daily Living=日常生活動作)、QOL(Quality of Life=生活の質)の両方が大きく低下してしまいます。
また、転倒・転落・滑落事故は生命を失う危険も伴います。このように、転落や滑落を含む転倒は高齢者にとって深刻なリスクなので、介護現場のリスクマネジメントでは転倒対策が重要といえます。
*:http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h30_kaigojiko_houkoku_20180402.pdf
■介護現場での転倒・転落の原因と状況を分析する
介護現場における転倒や転落を防ぐには、事故が発生する要因や状況を分析し、その対策を講じることが必要です。転倒・転落事故を招く要因は、主に次の3つに分けられます。
・外的要因:利用者をとりまく施設内外の物的環境によるもの。例えば、施設が床に段差のあるような構造になっていたり、床に水がこぼれたままになっていたりすると、生活環境における転倒リスクが高まります。
・内的要因:利用者本人の身体的な状態によるもの。筋力や視力の低下、歩行や認知機能の障害、薬の副作用によるふらつきなど、利用者自身に起因する転倒の危険性が高まっている状態を指します。
・行動要因:利用者の欲求や介護スタッフの希望的観測にもとづく行動によるもの。利用者が「自分で動きたい」「トイレに行きたい」などの欲求から行動することで、一方ではスタッフの「これくらいなら(利用者)1人で動けるだろう」という希望的な見通しによる行動も転倒リスクを招くことがあります。
転倒リスクはこれらの要因が重なることで増大します。これに加えて介護施設では、どのような状況で転倒・転落事故が起きるのでしょうか? 上述の調査結果では、転倒・転落事故の大半が見守り時を含め、目を離したわずかな時間など、スタッフの観察が手薄な時に発生していることがわかりました。
■転倒・転落防止にヒヤリハット事例を活用しよう
このことから、転倒や転落の対策を講じるためには、施設の環境を整えて外的要因を取り除くことに加え、内的要因や行動要因のリスクが高い利用者に対する見守りの強化、スタッフの教育や人事体制の強化など、行動要因への対処が必要になります。とはいえ、施設によって転倒リスクの高い入所者の割合、転倒事故が起きやすい環境などは異なるため、適切な対策は利用者の特徴や環境に合わせて考えることが大切です。
そして、そこでカギとなるのが、ヒヤリハット事例の活用です。ヒヤリハット事例とは、実害を伴う事故にはならずに済んだものの、一歩間違えれば実害を被った可能性のある出来事をいいます。施設におけるヒヤリハット事例は、その施設で起こるいわば「事故の芽」であり、リスク要因ですから分析と対処が適切な対策となります。
まだヒヤリハット事例の記録や蓄積をしていない施設では、これから実施していきましょう。転倒・転落事故につながるヒヤリハット事例には、以下のようなケースが考えられます。
1)食堂の床にこぼれた飲み物で利用者が足を滑らせそうになったが、何とか自力で体勢を立て直した。
2)入浴介助中にスタッフが少し離れた際、歩行介助の必要な利用者がイスから立ち上がろうとして体勢を崩しかけたが、同じスタッフがこれに気づき、あわてて止めた。
ヒヤリハット事例の記録は、客観的な視点で5W1Hを整理、明記し、発見者が記入するのが基本です。5W1Hとは、When=いつ(日時)、Where=どこで(場所)、Who=誰が(対象者)、What=何を(内容)、Why=なぜ(原因)、How=どのように(今後の対策)、といった情報を整理するための要素です。これを参考に上記の例を記録すると次のようになります。
<記入例1>
対象者:利用者Aさん
記入者(発見者):介護スタッフB
日時:令和◯年◯月◯日◯◯時◯◯分
発生場所:食堂
内容:足を滑らせて、転倒しそうになった
原因:床に飲み物がこぼれたままになっていた
対策:食事介助の前後に床の状態を確認する、床が濡れた時にすぐ拭けるよう、モップを取り出しやすい場所に設置する、転んでもケガをしにくい床材に変更する
<記入例2>
対象者:利用者Cさん
記入者(発見者):介護スタッフD
日時:令和◯年◯月◯日◯◯時◯◯分
発生場所:浴室
内容:イスから立ち上がろうとして体勢を崩しかけた
原因:スタッフが離れたため
対策:入浴介助中に離れる時は他のスタッフに代わってもらう
以上は、あくまでも想定される事例です。現場の状況は事業所によって異なるため、同じような事例でも有効な対策は事業所の環境や利用者の状態によって違ってきます。適切な対策を講じるには、組織全体でヒヤリハット事例を共有、分析した上で対策を検討することが大切です。
■ヒヤリハット事例を活用して施設ごとに転倒防止を工夫
介護事故の中で最も多い転倒・転落には、重篤な結果となりやすい現実があります。転倒・転落の対策をすることは、施設のリスクマネジメントを向上させるだけでなく、利用者のADL、QOLを維持することにもつながります。ヒヤリハット事例の記録を活用して適切な対策をしていきましょう。