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介護現場のICT導入支援事業について東京都を例に徹底解説
2019年度に始まった東京都の新事業「介護保険施設等におけるICT活用促進事業」の補助金制度。2021年度に名称が変更され「介護保険施設等におけるデジタル環境整備促進事業」として、実施されることになりました。今年度の補助金の内容と活用方法などについて、詳しく見ていきましょう。
【2021年度】介護現場のICT導入支援事業(東京都)の概要
「介護保険施設等におけるデジタル環境整備促進事業」は、介護施設等が質の高いサービスを提供し、地域との連携の強化に必要なデジタル環境を整えるための支援を目的としています。つまり、施設業務全般にわたって一体的なデジタル環境を整備する際に、必要な費用を補助金の予算範囲内で交付を受けられます。
対象となるのは、2021年4月1日時点で東京都内に開設している事業所のうち、次の3種類の施設です。
- 定員30名以上の特別養護老人ホームおよび併設される老人短期入所施設
- 介護老人保健施設
- 認知症高齢者グループホーム
ただし、公立の施設と、前年度までに「介護保険施設等におけるICT活用促進事業」の交付決定を受けた施設は対象外です。
補助金の対象となる経費は、基本単価と加算単価に分けられます。基本単価に該当する経費は、次の2種類です。なお、2については、単体での申請は認められません。
- 利用者対応の業務を効率化するためのデジタル環境整備
- デジタル環境整備のためのコンサルティング
基本単価の上限額は、特別養護老人ホームと介護老人保健施設の場合、1施設2,000万円まで、1法人4,000万円までです。認知症高齢者グループホームでは、1施設500万円、1法人2,000万円までとなっており、このうちの半分が補助金として交付されます。
加算単価に該当する経費には、「組織管理業務の効率化」および「併設サービスにおけるデジタル環境整備」などがあります。上限額は、特別養護老人ホームと介護老人保健施設で1法人300万円、認知症高齢者グループホームで1法人100万円です。加算単価は、基本単価と一緒でなければ申請できません。
補助金の対象となる経費
補助金の対象となる経費は、大きく分けて3種類あります。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
業務を効率化するためのデジタル機器
ひとつ目は、業務を効率化するために使われるデジタル機器の費用です。対象となるデジタル機器は、大きく分けて次の3種類があります。
- 居室に設置するセンサーおよび通信機能を備えた見守り支援機器
例:居室カメラやベッドセンサーなどを活用したクラウド型の見守り機器、ワイヤレスコールシステム
- 施設内で情報共有するための通信機器および介護業務支援のソフトウェア、タブレット端末
例:介護記録やケアプランなどを作成するためのソフトウェアや、記録するためのタブレット端末とスマートフォン
※パソコンは対象外です。
- 上記ふたつを導入するために必要な通信環境の整備
例:施設全体にWi-Fi環境を導入
補助金を受けるためには、原則として上記の機器等をすべて導入しなければなりません。既存のナースコールを更新するだけの場合や、手書きの記録をデジタル化するだけの場合は対象外です。基本的には、見守り支援機器と一体的に導入することが、補助金を申請する条件となります。
ただし、すでに導入している同様の機器がある場合に、それらと一体的に活用するのであれば、部分的な新規導入でも認められることがあります。
また、実際に補助金の交付を受ける場合は、デジタル環境整備による「業務改善計画書」の提出が必要です。提出された計画書や添付書類を確認したうえで、東京都が個別に補助金の対象になるかどうかを判断します。
デジタル環境整備のコンサルティング
ふたつ目は、デジタル環境整備のためのコンサルティング費用です。このコンサルティング費用は、単独では補助の対象となりません。補助金でICT環境を整えたいのであれば、必ず業務を効率化するためのデジタル環境整備と一体的に行いましょう。
実際に補助の対象となるコンサルティングは、施設の予算や定員規模に合わせた適切なプランにおけるものが該当します。例えば、システム導入の範囲に関する提案や業務改善計画の策定支援、メーカーの違う複数のシステムの統合支援、導入後の定着支援やトラブル対応などであれば、対象として認められるでしょう。
加算単価に該当する経費
3つ目は、加算単価に該当する経費です。基本単価に該当するデジタル環境整備を行い、以下の場面で業務を効率化する場合には、基本単価とは別に加算単価として補助金を受けられます。先述のとおり、加算単価のみでは申請できないため、必ず基本単価と合わせて申請が必要です。
- 施設における組織管理業務
財務会計や給与、人事等の組織管理業務システムの導入など
- 併設サービスにおける業務改善のためのデジタル環境整備
- 併設サービスおよび連携機関との情報共有
2と3の対象となる併設サービスは、次の9種類となっています。対象以外の併設施設を含めたデジタル環境整備を行う場合には、対象外の施設分は補助対象から除外されます。
看護小規模多機能型居宅介護/小規模多機能型居宅介護/通所介護事業所/地域密着型通所介護事業所/認知症対応型通所介護事業所/通所リハビリテーション事業所/訪問看護ステーション/夜間対応型訪問介護事業所/定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所
ICT補助金の活用事例に学ぶ活用方法
東京都による介護施設のICT促進のための補助金は、2019年度と2020年度の2回実施されました。これまでの活用事例をもとに、補助金の活用方法を考えてみましょう。
まずは、業務効率化のためのデジタル機器の活用方法です。介護の現場で重要な役割を果たす見守り支援機器のひとつは、「見守りセンサー」でしょう。見守りセンサーにはさまざまな種類があります。なかでも、ベッドセンサーや居室の出入りに反応するタイプは、利用者の様子をカメラやデータで確認することができるため、介護者の見守り回数を減らすことにつながります。
また、録画ができるタイプであれば、転倒や転落などの事故があったときに、客観的な視点で状況を確認できます。利用者だけでなく、介護者の対応についても確認できるため、その後のリスク回避に役立てられるでしょう。
このような見守り機器は、介護者と利用者の接触回数を減らす一助にもなるため、コロナ過での介護体制を支えられるでしょう。施設によっては、コミュニケーションロボットを活用しているところもあります。ただし、コミュニケーションロボットは現在のところ、今回の補助金の対象外です。
次に、ネットワーク環境について考えてみます。導入するデジタル機器やタブレット端末などを有効に使うためには、Wi-Fiのような無線の通信環境が必須です。適切な位置で問題なく使えるよう、施設内の必要な場所に配置するようにしましょう。
最後に、記録システムについて検討します。記録システムは、今後の展開を見据えて選ぶようにします。具体的には、施設内の情報共有だけでなく、ほかの事業所とも連携をとれるようなシステムを導入するとよいでしょう。
将来を見据えこの機会にICT環境を整えよう
国や自治体が介護現場のICT化を進めている目的のひとつが、業務の効率化です。業務が効率化されれば、残業も減ることになり、結果的に職員の離職率を抑えることにもつながります。正しく補助金を申請することで、少ない負担で十分なデジタル環境を整えることができるでしょう。これからICT化を進めたい施設や事業所は、ぜひ東京都の例を参考に補助金の申請を視野にいれてみてはいかがでしょうか。
※2021年度の東京都「介護保険施設等におけるデジタル環境整備促進事業」の申請期間は6月で終了しています。
参考: