介護ニュース
コロナ禍に対応する令和3年の介護事業ICT化促進補助金制度
令和3年(2021年)度の介護報酬改定では、ICTの活用による業務の効率化や負担軽減が、事業所の運営施策として推奨されています。また、介護情報のデータベース化を進めて科学的介護に取り組む姿勢も、テーマのひとつとして明確に打ち出されました。
介護業界の情報インフラは、介護事業所と居宅介護事業所のケアプランや実績データ、役所間の資料のやりとりなどがいまだにFAX主流であるという前時代的な状況です。それでも少しずつ、介護業務ソフトを搭載したタブレットやスマートフォンなどが普及し始めており、ICT化に向けて動き出しています。その一方で、介護事業所にとってICT化への設備投資は、大きな財政的負担をともないます。職員全員に1台ずつタブレットやスマートフォンを携帯させようとすれば、数十台規模のハードウェアの購入やリース契約が必要です。そこで今回は、介護事業所のICT化を支援する最新の公的補助金の情報をまとめました。
加速する介護事業所のICT化
厚生労働省は令和3年度(2021年)、ICT・介護ロボット導入支援(地域医療介護総合確保基金)を総額で82億円から、コロナ禍の感染症対策を見据え137億円に大幅拡充しました。この補助金制度は介護事業者にとって、もっとも重要な制度です。制度内容を理解し、利用できるかどうかを検討しましょう。
訪問介護事業を例にとると、補助金を活用した介護ソフトの導入が多くの事業所で進んでいるようです。介護ソフトを導入すると、介護に関するさまざまな業務を効率化できます。例えば、同一フォーマットで介護記録の作成、複数の職員間でケアプランの情報共有、居宅介護事業(ケアマネジャー)との連携、請求業務などです。タブレットやスマートフォンなどを使用して、インターネット環境があればどこにいても個々に記入や閲覧、修正ができるようになってきています。
補助金の申請窓口は各都道府県となり、事業者負担を必ず入れることが条件です。令和2年度補正予算では、事業所の職員数規模に応じて100万円から260万円の幅で補助額が設定されました。
どのようなICT導入に補助金が出るのか?
それでは、介護事業のICT導入において、具体的にどのような機器やソフトウェア、クラウドなどが補助金の対象となるのかについて詳しく紹介しましょう。
補助金制度の目的は、ICT化を促進して介護人材不足を補う対策をより強化することです。効率的な勤怠管理やシフト管理を実施し、夜勤時の職員の業務負担を軽減し、さらに新型コロナウイルスのような感染症対策に対応していくことを目指しています。
以下、補助金の対象となるICT導入内容例を具体的に見ていきます。
施設の介護職員に貸与されているタブレット端末やスマートフォンには介護ソフトがインストールされています。介護記録の入力機能を中心に、業務連絡のメール機能や電話機能も付帯していることから、どこにいても手が空いたときに記録作業や業務連絡が可能です。
多層階や広いエリアでの作業を行う施設介護では、インカム導入も注目されています。首にマイク付きネックスピーカーを装着し、スマートフォンのブルートゥース機能を活用します。利用者の介助をしているときでも緊急の連絡をとることが可能です。職員がいつでも必要なときに、対面で会話をするようにリアルタイムでコミュニケーションがとれるため、利用者へのよりきめ細かなサービスやリスクへの対応が可能になります。
補助金対象となるのはほかにも、Wi-Fi機器の購入設置、業務効率化のための勤怠管理、シフト管理などのソフト導入、LIFEによる情報収集対応のためのコンピュータ導入などがあります。最新の介護報酬改定のコンセプトにも呼応する内容となっています。
経済産業省が主導するIT補助金2021(中小・小規模事業者向け)とは?
厚生労働省とは別に、経済産業省もIT補助金制度を主導しています。このIT導入補助金は主に中小企業を対象にしており、もちろん介護関連の業種にも適用されます。
適用条件は事業所の形態によって異なります。会社形態の介護事業所の場合は、資本金が5千万円以下または、常時使用する従業員数が100人以下の事業者、医療法人、社会福祉法人の場合は、常時使用する従業員が300名以下の法人に適用されます。上限額、下限額がありますが、最小で1/2から1/3の自己負担で申請が可能です。
詳細は「IT補助金2021」に記載されています。これまでの通常枠(A類型、B類型)最高450万円に加え、コロナ禍時代に対応をするために特別枠として補助率が高い「低感染リスク型ビジネス枠」(C類型、D類型)最高450万円が新設されました。対人接触を低減するための対面化ツールの導入や業務のさらなる効率化を積極的に後押ししています。
公募スケジュールによると、2次締切分の期日は2021年7月30日(金)午後5時です。3次締切分は、9月中に予定されています。
各地方自治体が補助金の複数回の交付を予定しているのでまずはチェック
厚生労働省のICT導入支援事業に話を戻し、例として神奈川県の補助金制度を紹介しましょう。(神奈川県公式ウェブサイト「ICT導入補助金の交付」から)
- 補助対象:タブレット端末・スマートフォンなどのハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク機器(Wi-Fiルーター等Wi-Fi環境を整備するために必要な機器を含む)の購入・設置費など
- 補助額:1事業所あたり対象経費の4分の3または2分の1。
- 補助上限額:職員数に応じて下記のとおり設定。
職員1人~10人 :100万円
職員11人~20人:160万円
職員21人~30人:200万円
職員31人以上 :260万円
- 補助条件:介護従事者負担軽減のためのICT導入計画を作成し、導入後の効果を県および国に報告義務がある。
- 申請期間:
第1回:2021年5月24日~2021年6月25日
第2回:(未定)
要件によって異なるため、「ICT導入支援事業費補助金交付要領」を確認してください。
神奈川県では第1回目の申請期間が6月で終了していますが、内容や申請期間は地方自治体により異なります。募集を開始していない地方自治体も多いため、随時それぞれのホームページで予定を確認しましょう。
公的補助を積極的に活用していこう
コロナ禍のいま、事業を安全に展開していくために、今後は人材確保と労働環境の整備、感染への対策などがよりいっそう重要視されています。そのためには、積極的なICTの導入が求められます。
それにもかかわらず、日本の介護業界はいまだにFAXと固定電話を用いた昔ながらの情報のやりとりが主流です。国が意識を変えデジタル化に大きく舵を切ったいま、事業者もより柔軟な思考でネットワークを広げ、有効な公的補助を積極的に活用していく必要があります。ただし、補助金は原則的に介護事業所が捻出するICT化にかかる費用を「補う」という考え方であり、ある程度の自己資金調達が必要です。法人の運営計画にもとづく、無理のない資金繰りを行っていきたいものです。
まずは、各都道府県別の条件や募集時期をホームページからしっかりと確認しましょう。変更や改定もあるので、積極的に窓口に問い合わせをしていくこともおすすめします。
参考: